プラスチック廃棄とそれに伴う海洋汚染は、いま世界で最も話題になっている環境問題の一つだ。毎分15トンのプラスチックが陸から海に流れ込んでおり、世界的なリサイクル率は27%にとどまっている。

ノルウェーの首都オスロで活動するスタートアップEmpowerは、そんなプラスチック問題へのユニークな解決策を提案する。「プラスチック・ポジティブ」というコンセプトを掲げる同社は、さまざまな地域の人々にプラごみを回収してもらう代わりにデジタルトークンを付与し、そのプラごみが回収後どのように活用されるかまでをブロックチェーン技術によって追跡できるシステムを作り上げている。

創業は2018年。たったの2年ほどで、多くのプラスチック廃棄物収集業者・廃棄物管理会社・リサイクルプラスチックなどと事業者と提携し、ヨーロッパやアジア、アフリカなど世界15か国でシステムが試験運用されるまでに成長した。毎年大量のプラごみが自然界に放たれる中、プラごみからリサイクル・アップサイクルの製品をつくることは、約500億米ドルの潜在的価値を持つといわれている。

「世界には、リサイクルのためのソリューションが不足している。」そう語るEmpowerのCEOヴィルヘルム・マイヤーさんに、次世代のクリエイティブなプラスチック削減方法について伺った。

Empower CEO ヴィルヘルム・マイヤーさん

Empower CEO ヴィルヘルム・マイヤーさん

次世代のプラスチックリサイクルシステム「Empower」

Empowerのプラスチックリサイクルの取り組みには、誰でも参加できる。たとえばラオスやカンボジア、ポルトガルなどの国の人々が海岸沿いで捨てられたペットボトルやおもちゃなどのプラスチック製品を集め、各地に設置されたリサイクルステーションに持っていくと、その重さにあわせて15~30セントほどのデジタルトークンが即時にアプリに付与される。

ヴィルヘルムさんによると、参加のためにはアプリをインストールするだけなので複雑な手続きがなく、道端のごみを持っていくことですぐに現地通貨が手に入るというインセンティブがあるため、人々は喜んで回収してくれるという。すでに海に入り、細かく砕けてしまったマイクロプラスチックを回収するよりもコストパフォーマンスが高く、貧困に陥っている人々のちょっとした手助けにもなる。

なお、リサイクルステーションにプラスチックごみを持っていく際に、お金ではなく「プラスチックをより回収するための取り組みに投資する」オプションも選ぶことができ、実際に参加者の半数はそれを選ぶこともあるそうだ。Empowerの収益の一部は、そんな未来への投資から得ている。

ここで注目したいのは、Empowerが生まれた国ノルウェーでは、すでにペットボトルのリサイクルシステムが確立しているということである。現在ノルウェーで販売されるペットボトルの97%がスーパー等に設置された回収ボックスに持ち込まれ、リサイクルされているのだ。

ノルウェーではもともと、プラスチックをリサイクルするよりも新たなプラスチックを生み出す方が安価だった。しかし現在は、ペットボトルには少額のデポジットが上乗せされており、回収ボックスに入れるとそれが返ってくるシステムがある。ペットボトルは最大12回リサイクルでき、透明なボトルはボトルの再製造に、そして着色されたボトルは新たなプラスチック材料を作るのに使用されるという。

同様のシステムはドイツやオーストラリア、カナダなどの国にもあるが、ノルウェーのリサイクル率の高さは群を抜いている。その背景として、プラスチック製造・販売業者にも環境税を課していることが考えられる。全国のリサイクル率が95%を超えると環境税が免除になるため、事業者らもなんとかリサイクルしてもらうための方策を打つしかないのだ。過去7年間、ノルウェーは国民のプラスチック率95%以上を達成し、環境税を課していない。

ヴィルヘルムさん:ペットボトルのリサイクルに関しては、市民にも十分浸透しているように思える。リサイクルのために特別なことをする必要はないからね。空のボトルが家にあってもごみになるだけだけど、日々の買い物に行くついでにお金に変えられるならその方がベターだろう。ノルウェーだと、ペットボトルを資源に変えることはもはや当たり前になっている。

ノルウェーの方策は金銭的インセンティブを使った画期的なシステムに思えるが、「それでは十分じゃないんだ。」とヴィルヘルムさんは付け加える。

リサイクルの問題点と、テクノロジーによる解決

プラスチックポジティブ

ノルウェーのプラスチックリサイクルは、あくまでペットボトルの成功だけにとどまっている。他のプラスチック製品に関しての取り組みは、他の国とそう変わらないという。

ヴィルヘルムさん:ペットボトル以外のプラスチックのリサイクルは、ノルウェーでもカバーできていない領域だ。また、プラスチック製品を回収するのはいいが、実は誰も回収されたものがどこに行くのかまでは知らない。みんながリサイクルされると思ってごみを分別しても、実際はただ焼却されていたりね。リサイクルのためのインフラや、ソリューションが足りていないんだ。

Empowerがシステムにブロックチェーン技術を導入した理由は、国境を越えてすぐデジタルにお金のやりとりができるだけでなく、「リサイクル後にどうなったか」を確認するトレーサビリティ(追跡可能性)&トランスペアレンシー(透明性)を保持するためなのだ。各国の提携先のリサイクルステーションに持ち込まれたプラスチックごみは瞬時にブロックチェーン上に登録され、ごみを収集した人は、自分が手渡したプラスチックがどこにあるのかをリアルタイムにマップで確認できる。

そして、どのような製品に生まれ変わったのか(たとえば衣服や、シャンプーの製品パッケージ等)も見ることができるため、回収者・事業者ともにリサイクルに対する責任感が生まれる。こうしてEmpowerは、ごみを拾うというちょっとした行動を、思わぬ社会的なインパクトの創出につなげている。

プラスチック・ポジティブな社会を目指して

ヴィルヘルムさんに、プラスチックは素材(Material)か廃棄物(Waste)か、と問うと「現状はまだ廃棄物だ。Empowerの取り組みを通して、もっと多くの場所で“素材”と認識されるようにしていきたいね」と返ってきた。それでも、ノルウェーのプラスチックごみに対する意識はボトル以外でも変わってきているという。

Empowerは今後、同社で行っている回収からリサイクルまでの流れをオープンソースで公開し、各企業や団体がダウンロードして使えるようにするという。「最近、色々な国の事業者から、ぜひうちの地域でシステムを展開してくれという問い合わせがくるけれど、すべてに対応するのは難しい。各地域でごみの回収方法が違うから、本当はローカルな事業者がそれぞれやるのが理想なんだ」とヴィルヘルムさん。

世界中に散らばるプラスチックごみをリサイクルして価値ある素材に変えるだけでなく、参加者の貧困問題や環境意識の向上にも寄与する。そんなユニークなリサイクル方法を、今後はさまざまな企業や団体、地域で適用していく。プラごみのポジティブな未来が見える取り組みだった。

Empower CEO ヴィルヘルム・マイヤーさん

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

【参照サイト】Empower