サーキュラーエコノミーの実現につながるビジネスが広がりつつある中、環境への負荷を最小限に抑えるサステナブル(持続可能性)を上回る、リジェネラティブ(環境再生的)な事業にチャレンジする動きが国内外の企業やブランドの間で目立ってきた。事業活動は生態系の一部である人間による営みであるという前提に立ち、ビジネスによって環境やコミュニティを従前よりもさらに再生する循環的なあり方を目指すリジェネラティブビジネスは、生態系の恩恵をもっとも直接的に受ける食品や農業から、一見遠そうに見えるITのような業界にまで及んできている。

「サステナブル=現状維持」を超えていくために

リジェネラティブは、実は決して新しい概念ではない。以前からエコロジカルフットプリントをはじめ自然環境全般に与える負荷を数値化する考え方があり、それらに基づいてできるだけフットプリントを抑える、あるいはもし負荷がかかってしまった場合はその分だけ修復、相殺するような取り組みがサステナブルとされてきた。そこに2010年代に入ってサーキュラーエコノミーが欧州を起点に広がり、英エレン・マッカーサー財団によるサーキュラーエコノミーの3つの原則として、「自然システムを再生する(Regenerate natural systems)」が掲げられた。サーキュラーエコノミーの重要性がクローズアップされ、具体的な取り組みが進むにつれて、サステナブルであることを超えて生態系を保全・再生するリジェネラティブビジネスがいよいよ本格的に動き出しているのだ。

リジェネシス・グループのビル・リード氏による概念図「Trajectory of Environmentally Responsible Design(環境への責任あるデザインについての軌道)」。右上に行くほどエネルギーを使わず、より包括的で、再生的であることを表す(Concept by C Krone, Regenesis, Bill Reed / All rights reserved. Regenesis 2000-2014)

リジェネラティブビジネスに注目が集まるのは、私たちが今、地球の生態系の行方を左右するターニングポイントに置かれていることとも深く関わっている。

カナダ・モントリオールで2022年12月に開催されることになった第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)第2部で採択される予定の2050年に向けた生物多様性保全の国際目標案では、2020年を基点に生物多様性の指標群を改善する取り組みを行うことで2030年にノーネットロス(総合的に自然が失われていない状態)、またはネットゲイン(総合的に自然が回復している状態)を達成することで2050年に「自然と共生する世界」を実現しようとする道筋が示されている。行動期間はすでに始まっているのだが、SDGsと同様に2030年までの私たちの選択と行動が地球の生態系の未来を決めるという真っただ中にあるのだ。

これを受けて、世界の企業に対してより具体的な対策と行動を求める動きが相次いでいる。

「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)の自然資本版である「自然関連財務情報開示タスクフォース」(TNFD)の枠組みが2023年秋までに公開される見通しのほか、「科学に基づく目標設定」(Science Based Targets)の生物多様性版ともいえるSBTN も、2022年中に目標設定手法を公開するとしている。さらに、英国政府は生産時に森林の農地転換が起きていると考えられる商品*などに対して、サプライチェーン上の情報収集やリスクの特定・評価、リスクの防止・軽減を行うデュー・デリジェンス・システムを構築し、情報開示を求める方向で検討が進んでおり、パブリックコメント時点では牛肉、カカオ、革、パーム油、ゴム、大豆が想定されている。欧州委員会にも同様の動きがある。
*大臣が後に認証する予定

では、各企業では具体的にどのような取り組みが行われているのか。生態系との関係性がもっとも深く、生物多様性の保全・再生にもっとも大きな影響を及ぼす食料・農業から見ていきたい。

食料・農業:環境再生型農業への参入相次ぐ

フィンランド・イノベーション基金(Sitra)はこのほど発行したレポートの中で、食料・農業部門でサーキュラーエコノミーを推進することが生物多様性喪失からの回復・再生に最も貢献できると結論づけた。食料生産・輸送・販売に関わるサプライチェーンでの環境汚染や食品ロス・廃棄物の削減や、代替タンパク質の開発などと並んでリジェネラティブ農業(環境再生型農業)が挙げられており、企業による取り組みが広がっている。

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