「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」などのキーワードが聞かれるようになって久しくなった今日。企業の中で、あるいは個人的にサステナブルなアクションを模索されている方も多くいらっしゃると思います。
IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社では、2021年にヨーロッパ在住のメンバーを中心とする「Harch Europe」を設立。2022年2月4日にローンチイベントとして、「欧州サステナブル・サーキュラーシティ、アムステルダム・ロンドン・パリのまちづくり最前線」を開催しました。
イベントの様子
行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指してきた欧州で、サステナブルシティインデックスの上位を占めたのは、オランダのアムステルダム、イギリスのロンドン、フランスのパリ。今回のイベントでは、サステナブルなニュースにアンテナを張る現地在住の編集部員が体験談を交えながら、先端都市と呼ばれる場所の実際の様子を共有し、参加者の皆さんとともにこれからのサステナビリティについて考えました。
90名以上の方にご参加いただいた当日のイベントの様子をレポートします!
スピーカープロフィール
スピーカー:西崎こずえ(Circular Economy Hub編集部)
高校からオーストラリアに居住し首都キャンベラ大学で観光経営学を専攻。卒業後マーケティング・PR・CSRコンサルタントとして国内外のブランドを支援。2020年1月よりオランダ・アムステルダムに拠点を移しサーキュラーエコノミーに特化した取材・情報発信・ビジネスマッチメイキング・企業向け研修プログラムなどを手掛ける。
スピーカー:富山恵梨香(IDEAS FOR GOOD副編集長)
IDEAS FOR GOOD副編集長。パリ在住。大学では行動経済学を学び、卒業後には日系不動産会社のベトナム、ハノイ支店に約2年間勤務。国内外の社会的企業への取材をする傍ら、体験型メディア事業「Experience for Good」責任者としてベトナム・ハノイの「ウェルビーイング」ツアーなどを企画・実施。その他フィリピン在住経験の他、世界20か国以上への渡航経験あり。
スピーカー:伊藤恵(IDEAS FOR GOOD Business Design Lab)
IDEAS FOR GOOD Business Design Lab 事業開発担当。ロンドン在住。一橋大学社会学研究科修了。学生時代は東京・シンガポール・香港などアジアのグローバルシティの公共空間・緑化空間について研究し、その後オフィスのインテリアデザインを手掛ける企業にてプロジェクトマネジメントに携わる。現在はIDEAS FOR GOODでのライティング・編集ほか、様々なクライアント案件・コラボ案件に取り組む。
クリューガー量子(Circular Economy Hub編集部)
ドイツ在住。「石油を掘りたい!」と工学を学び、日本で土木技術者として道路設計などを担当。その後、メキシコでスペイン語を学び、自動車業界で日西通訳として働く。2003年に渡独し、現在ライター・ハイデルベルク市公認ガイドとして活動中。Circular Economy Hub編集部員。
サステナブル・シティ・インデックスで上位を占めた、アムステルダム・ロンドン・パリ
今回のイベントで取り上げた欧州3つの都市、アムステルダム・ロンドン・パリ。その基準となっている指標が、イギリスのロンドンにある、アセットマネジメント企業のシュローダーが発表した、欧州サステナブル都市政策指標ランキング「サステナブル・シティ・インデックス」です。
再生可能エネルギーや、クリーンな公共交通機関、廃棄物政策など8つの分野を対象とし、59の都市をランク付け。ランキング上位の都市は、環境への影響を最小限に抑えつつも住民に高い生活の質を提供できている都市ということを意味しています。
たとえば、1位のアムステルダムと3位のパリは、2050年までにエネルギーの100%を再エネで供給するという目標が高く評価されており、2位のロンドンは、すべての分野で総合的に高評価を獲得しました。
同指標では、主に環境面に焦点を当てていますが、今回のイベントでは、それに加えて社会的側面についても報告していきました。
アムステルダム:サーキュラーエコノミー移行の先に見据えるのは誰もが自分らしく暮らせる街
西崎:オランダは、2016年に国を挙げて2050年までの完全サーキュラーエコノミー実現を目指すことを公言して以来、様々な政策で循環型の仕組みへの移行を推し進めてきました。首都のアムステルダムもサーキュラーエコノミー政策に加え、より「人」の側面に働きかける公正な社会実現のために2020年4月よりドーナツ都市計画を組み込みました。
アムステルダムが大切にしてきた「誰もが自分らしくいられる」自由の精神は、サーキュラーエコノミーを進める上でもブレない指針になっている
さらに行政から一方的に働きかけるのではなく、企業の循環化に向けた課題と、本当に必要とされる政策を理解するために、影響力のある企業100社のCEOらが対話する場としてDutch Circular Leadership Conferenceを開催したのも、ボトムアップの文化が根付くオランダらしいといえるでしょう。
実際に進むサーキュラーエコノミーへの取り組みは、街の各所に。中央区の旧市街地は、限られた土地を「暮らすのにも訪れるのにも良い街」の実現のために優先順位を明確にして観光関連事業への抜本的な改革を実施。一方で、重工業地帯で広く土壌が汚染されていた北区では、サーキュラーエコノミーのコンセプトを生活の場で実験する「リビングラボ」を各所に導入し、その結果をオープンソース・データ化しています。国内外で活かせるようナレッジとデータを蓄積しているんですね。
そして、街で一番新しい東区の開発区域では、これまでアムステルダムが街の様々なエリアで得たナレッジをすべて投入して完全循環型の開発が進められています。アムステルダムでは、住民らによるボトムアップの取り組みを重要視し、低所得・中所得者層にとっても暮らしやすく、子どもたちさえも楽しくサーキュラーエコノミーを知り、実験することができるまちづくりが進んでいます。
ロンドン:業界・官民・企業規模の垣根を超えて、デザインとテクノロジーを使ったサステナビリティを模索
伊藤:イギリスでは2020年以降「Build Back Better」「緑の産業革命」などの環境政策が打ち出されてきました。「UK Net Zero Target」の中では、G7参加国として初・2050年までにゼロエミッションを達成することを宣言しています。また、2021年にグラスゴーにて開催されたCOP26が記憶に新しい方もいらっしゃるかもしれません。ロンドン市も「Circular Economy Road Map」を導入したり、Ultra Low Emission Zoneを設定して車両の運行を規制したりと、顕在化する大気汚染等の環境問題の対策に積極的に取り組んでいます。
一方の市民の生活はというと、環境負荷の低い公共交通が張り巡らされていたり、サステナブルなワークスペースが拡大していたりと、持続可能に暮らすためのオプションが多く設けられています。ゼロウェイストレストランのSilo Lodonなどもとても人気ですね。
地下鉄の様子。ロンドンの一部では地下鉄の排熱をオフィスや住宅で暖房として利用するプロジェクトも。
企業の活動としては、業界・官民・企業規模の垣根を超えたサステナビリティの取り組みが特徴的です。例えば、需要(企業)と供給(再生可能エネルギー開発者)の間で追跡可能なエネルギーを最適化させるプラットフォーム・Zeigoは、ロンドンのガトウィック空港とプロジェクトを行っています。
ロンドンでは、企業・行政の活動ともに、なるべくサステナビリティの取り組みを分配的にする、ダイバーシティや貧困の観点など社会的な視点を落とさないためのルールづくりが行われている最中です。
パリ:「循環経済法」をきっかけに。市民のアイデアでつくられる街
富山:パリでは、2020年2月に施行された「循環経済法」をきっかけに、今年2022年の1月から1.5キログラム未満の果物と野菜のプラ包装が禁止されたり、食品以外のファッションや家電の売れ残り製品の埋め立て、焼却が禁止されたりと、今まさに新たな政策が次々と実行されているフェーズです。また、2020年発表時に大きな話題になった、パリを「15分の街」にするという新たな都市計画は今、コロナ禍で人々の行動が制限されたこともあり、世界中で注目を集めています。
「15分の街」では、2024年までに誰もが徒歩か自転車で15分で仕事、学校、買い物、公園などにアクセスできる都市にするコンセプトが掲げられている。Image via Paris en Commun
この「15分の街」では、特に「民主主義」が主要テーマに。住民による住民のためのパリ市の「参加型予算」は、パリ行政の一つの特徴でもあります。お金のある人ではなく、アイデアのある人をパリ市が助成金などで支援しているだけでなく、市民のアイデア実現までのプロセスをパリ市のサイトでわかりやすく公開しており、市民がまちづくりに参加したいと思える仕組みを作っています。
また、市民の生活を見てみると、パリはヨーロッパの中で最も量り売りスーパーの数が多い都市としても有名です。「2030年までに400平方メートル以上のスーパーに関して、売り場面積の20%を量り売りにしなければいけない」という法律が「気候とレジリエンス法」の中で定められており、実際にフランスのスーパーの71%に、量り売り専用のセクションがあります。
パリの量り売りショップ「Kilogramm」では、量り売りを広めるための工夫として、野菜や米、パスタなど、人々の需要がある製品の価格をできるだけ下げることで、市民が量り売りでの購入を選択肢に入れられるような仕組みになっていました。パリで量り売りが浸透している背景には、市民のエコ意識の高さだけではなく、法整備や街にある量り売り店舗の数、価格面などが影響していそうです。
三都市以外の拠点:ドイツ・オーストリア
クリューガー:ドイツでは、2018年に教育研究省が「Circular Economy Initiative Deutschland(CEID)」を発足しました。CEIDは2021年にドイツのCEロードマップを公表し、政治・産業・科学界の意思決定者に向けた主要10分野における推奨事項を発表。今後、この推奨事項がどの程度政策に採用されていくかが注目されます。
2023年からは容器包装廃棄物法が改正され、テイクアウト用の食料・飲料品を販売するレストラン・カフェなどを対象に、使い捨て容器包装の代わりに再利用可能なカップ・容器を顧客に提供することが義務付けられます。現在、リユース容器を提供する店舗が増えており、毎日の生活のなかでサーキュラーエコノミー移行に向けた動きが感じられるようになってきました。
ハイデルベルクの街並み。街と川・山の距離がとても近い。
生物多様性保全に関しては、連邦自然保護法などによって多くの動植物が保護されています。たとえば、ドイツで釣りをするには免許証が必要です。ドイツでは、川を渡る船が昔から人とモノの重要な輸送手段とされ、ほとんどの都市は川沿いに位置しています。ドイツ人の生活と密接した川や湖に住む生態系を守るうえで、この釣り免許証のシステムはとてもいいなと思っています。
オーストリアでは、2000年に持続可能な開発を目的とした国家戦略が打ち出され、2002年に連邦政府の政策・行動計画が確立されました。サーキュラーエコノミーを優先項目に定めた政府プログラムなども発表されており、現在サーキュラーエコノミーへの移行に向けた動きが始まっています。企業200社以上が気候や循環性ソリューションを研究するパイロット施設も稼働開始しました。また、オーストリア政府は、消費財・観光業界・教育業界・イベント・金融などの分野の持続可能な事業や活動に対して、エコラベルを発行しています。
オーストリアで初めてエコラベル承認を受けたグリーン美術館であるフンデルトヴァッサー美術館。フンデルトヴァッサーは持続可能な都市を目指し、「自然な曲線」や「真っ直ぐではない床」や緑をふんだんに取り入れた建物を多くつくった。
編集後記
参加者の皆さんからいただいたたくさんのコメントが印象的だった今回のイベント。「サステナブルな施策が浸透した背景は?」「日本で応用するには?」など、欧州の施策のインプットにとどまらず、他の地域への応用を考えるための質問も多く寄せられました。
欧州のサステナブル施策と言っても、もちろん問題をはらんでいるものもあり、すべてが完璧なわけではありません。そこからどうヒントを得て、日本での事業にいかしていくのか。答えは一朝一夕には出ませんが、これからも参加者の皆さんと一緒に議論を進めていければと思います。
Harch Europeではこれからもイベントを開催していく予定です。ぜひ今後のアップデートにご注目ください!
Harch Europeの事業ご紹介
Harch Europeでは、今後日本の企業の方に向けて下記のご支援を行っていく予定です。
- 欧州サステナビリティに関するレポート作成
- 現地を知るためのオフライン・オンラインツアーの実施
- 欧州での事業共創パートナー探し
- 欧州企業での社会人インターンシップ(短期)
- 日本のサステナブル情報を欧州に発信
気になるコンテンツのある方は、ぜひIDEAS FOR GOOD Business Design Lab・お問い合わせページからお気軽にお問合せください。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。