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EUにおける繊維および衣料品は経済を支える重要な分野であり、16万を超える企業で150万人の従業員が従事し、2019年の売上高は1,620億ユーロに上る。その後新型コロナウイルスの感染拡大による影響により、2020年にはEU圏の売上高は2019年と比較して繊維で9.2%、衣料品で18.1%縮小した。環境面では、EU域内における繊維製品の消費は、気候変動を含めた環境に及ぼす悪影響の4番目に大きな原因であり、水と土地の利用は3番目に多いとされる。また、EU域内で埋め立て・焼却など廃棄される繊維の量は毎年約580万トン、一人あたり約11kgに及んでいる。(数値は「欧州繊維戦略」より)
持続可能な循環型繊維戦略が目指すもの
欧州委員会は2020年3月、競争力と環境保護の両立、消費者の権利強化を目的として策定した「新循環経済行動計画」で、7つの重点分野として、電子機器とICT・バッテリーと車・包装・プラスチック・繊維・建築・食を定義した。うち、繊維に関しては、「持続可能な循環型繊維戦略 (EU Strategy for Sustainable and Circular Textiles)」(以下、繊維戦略)を策定。繊維の再利用を促進し、持続可能かつ循環型市場の実現を目指す。
繊維戦略では、2030年までにEU域内で販売される繊維製品に関し、下記の目標を掲げる。
- 耐久性が高く、寿命が長い
- リサイクル可能である
- 再生繊維の大幅な使用
- 有害物質を含まない
- 労働者の権利などの社会的権利や環境に配慮されている
これらの目標達成に向けた重要な行動指針として、下記を提言している。
1. 必須となるエコデザイン要件
繊維製品の寿命を延ばすことは、気候や環境への影響を大幅に低減させる最も効果的な方法であり、その実現には製品の設計段階が重要な役割を果たす。製品の耐久性向上は消費者がより長く製品を使用できると同時に、再利用、レンタルと修理、回収サービス、中古小売などの循環型ビジネスモデルをサポートし、消費者にコスト削減の機会を提供する。また、リサイクルを困難にするような複数の繊維の混紡、リサイクルプロセスにおいて汚染物質となりうる添加物など、製品設計段階における改善は技術的な課題に対処するための最初のステップとなる。
耐久性や再利用性の観点から繊維の性能を向上させるため、修復可能性や繊維間のリサイクル可能性、および必須のリサイクル繊維含有量などの観点を含む製品固有のエコデザイン要件を開発する。また、EU市場に出回る繊維製品に使用されている有害物質のうち約60に発がん性や変異原性、生殖毒性があると考えられており、業界がこれら懸念物質の代替や最小化を行うことを支援する。
2. 売れ残り品、返品の廃棄を禁止
デジタルツールを活用し、ECでの高い衣料品返品率をどのように減らし、オンデマンドのカスタム製造を促進できるか、業界と共に評価し、プロセスの効率を改善、ECから排出されるフットプリントを削減させる。
3. マイクロプラスチック汚染への取り組み
マイクロプラスチック放出の原因のひとつとして、合成繊維で作られた製品が挙げられる。衣類に使用される繊維の約60%は合成繊維、主にポリエステルであると推定され、この量は増え続けている。洗濯時の、特に最初の5〜10回で最も多くのマイクロプラスチックが放出される。
この記事は、Circular Economy Hub 会員専用記事となります。