気象庁は、7月の国内月平均気温について、統計を開始した1898年以降の7月として最も高くなったと発表した。気候危機をより身近に感じられるようになっている。ただ、私たちが直面しているのは、異常な暑さだけではない。気候変動により、様々な動植物は生息できる場所を奪われ、生物多様性の喪失が加速しているのだ。科学者らは最新の報告書のなかで、200万種もの動物・菌類・植物が絶滅の危機にさらされていると警告している。これはこれまでの国連の推定値の2倍にも上る。企業にとっては、自社活動が自然と生物多様性に与えるリスクを理解した上で適切な行動を取ることが急務だ。
この1年ほどの間にTNFDやSBTNなど、様々なガイドラインやツールが公表され、利用できるようになった。一方で、企業担当者はさらなる膨大な情報を収集・分析しなければならず、実際にはGHG排出量の把握と開示、削減への対応だけで手一杯であるという声も多く聞かれる。この記事では、企業にとって、生物多様性と自然関連リスクに取り組まなければならない理由とその方法についてみていく。
なぜ生物多様性と自然リスク管理が必要か
生物多様性の損失は、企業にとって大きなリスクをもたらす。例えば、多様な種が生息する森林、草原、マングローブ林は炭素循環に不可欠であり、大気中に排出された二酸化炭素の一部を吸収して貯蔵している。逆に言えば、自然への影響の理解なくしてネットゼロ化は達成できないわけである。私たちのビジネスは、水や原材料などの自然がもたらす利益に何らかの形で依存して成り立っており、こうした自然システムが機能不全に陥れば当然私たちのビジネスも停止に追い込まれる可能性がある。これまでのビジネスのやり方で私たちは自然に多大なる負荷をかけてきた。こうした状況を変えるためには、企業活動からくる自然と生物多様性への影響とリスクを正確に把握することが必要だ。
TNFDとSBTN
実際に、企業活動の自然と生物多様性に与える影響についての議論は、この約一年で大きな前進を見せた。2023年5月には、科学に基づく目標を基準設定するネットワーク(SBTN)が初めてとなる「科学的根拠に基づく自然に関する目標」公開。この企業向けのガイドラインは、企業は自然に関する領域において影響を評価・削減するための目標設定のためのフレームワークとして活用できる。
この目標とガイドライン公表と同時に、パイロット導入する世界17社を公表。日本からはサントリーホールディングスが参加している。この実証実験はすでに2024年5月に終了。この結果を元に同年7月に発表された報告書のなかで、SBTNの方法論が企業によって実行可能であることが確認され、目標設定プロセスの透明性と信頼性が強化された形となった。このパイロット導入と並行して、今後何らかの形で自然への影響に関する目標を企業活動に導入すると表明している企業は、日本のセブン&アイ・ホールディングスやLIXILなど含む世界約160の企業だ。
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