2020年はサーキュラーエコノミーまたは循環型経済という言葉が日本で定着をし始めたことから、日本における「サーキュラーエコノミー元年」といえるかもしれません。サーキュラーエコノミーへの移行に向けて、さまざまな取り組みが生まれています。2021年は脱炭素に向けた取り組みと相まって、サーキュラーエコノミーのより具体的な動きが加速していくと考えられます。そこでここでは、筆者が2021年に注目するサーキュラーエコノミーの5つのテーマについて考察していきます。
1. 脱炭素とサーキュラーエコノミーの関連づけ
脱炭素化に向けて本格的に走り始めた2020年。日本を含む世界で「2050年実質ゼロ」を掲げる国は120ヶ国に上り、ここへきて経済政策と脱炭素化施策が結びつく脱炭素競争が始まりました。
ここで忘れてはならないのが、サーキュラーエコノミーへの移行なしには脱炭素社会は実現しえないということです。具体的には、再生可能エネルギー拡大だけではカーボンニュートラルの達成は難しいといえます。
エレン・マッカーサー財団は、「再生可能エネルギーとエネルギー利用効率化は、全ての温室効果ガス排出のうち55%に対しての取り組みであり、仮にこの55%が解決されたとしても、残りの45%にはアプローチされない」と主張するレポートを2019年9月に発表しています。同レポートでは、セメント・アルミニウム・鉄・プラスチック・食の5つの分野の循環化に取り組むだけでも上記45%の半分程度にアプローチでき、運輸部門からの排出値に相当する93億トン(CO2換算)の温室効果ガス排出(世界全体の排出量の21%)を削減できるとされています。
例えば食というカテゴリーのうち農業生産一つとっても、何も対策が取られなければ、世界のCO2排出量は68億トンから2050年には90億トンに増加すると見込まれています(GlobAgri-WRR CREATING A SUSTAINABLE FOOD FUTUREより)。
また、国際資源パネル(IRP)G7 統合報告書では、「資源効率性の大幅な向上なくしては、平均気温の上昇レベルを2℃より十分に低く抑えることは難しく、大幅にコスト高となる」(環境省訳)と、2℃目標の達成には資源効率性の大幅な向上、すなわちサーキュラーエコノミーへの移行が必須となることを示しました。
さらに、脱炭素社会への移行を支えるハードやデジタルデバイス自体にも留意しなければなりません。例えば、EVに利用されるコバルトやリチウム、ニッケルなどのレアメタル、太陽光パネル、風力タービンなど、設備やデジタルデバイスそのものの循環化がCO2削減の観点においても大きな課題となります。
この脱炭素とサーキュラーエコノミーの関連づけについては、世界で議論が開始されています。2021年は、11月に英国グラスゴーで開催されるCOP26(もしくは周辺会合)や4月にオランダで開催が予定される「世界循環経済フォーラム(WCEF)」などでさらに議論が加速されます。とりわけプラスチックについては、国際条約締結に向けた交渉を開始するかどうかが、2月に行われる次回の第5回国連環境総会で議題に上ります。脱炭素化とサーキュラーエコノミーへの移行がより一層統合的に進められることになるでしょう。
国内においても、2020年12月に政府より公表された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に、すでに公表されている「循環経済ビジョン2020」を含むサーキュラーエコノミー移行施策と関連づけて議論することが、脱炭素の流れをさらに加速させる鍵になります。
2. リユース・再販市場の拡大
リユース・再販は環境負荷の低い方法として知られていますが、市場の拡大が続いています。その急先鋒であるアパレル業界における世界のリユース市場規模は2019年の280億ドルから2024年には640億ドルに拡大することが予測(THREDUPレポート)されています。矢野経済研究所によると、国内でも2019年のアパレル業界のリユース市場規模は前年比16.1%増の7200億円で、2022年には9900億円に拡大する見通しです。
さらにリサイクル通信の独自推計では、国内全体のリユース市場は2017年に2兆円に達し、2022年には3兆円にまで成長するとされています。
2020年以降は新型コロナウイルス感染症拡大の影響が少なからず出てくると考えられますが、フリマアプリの普及やリユーステックの浸透により、全体としての拡大傾向は続くでしょう。
ここで大事な点は、リユース・再販にサーキュラーエコノミーの視点が加わることです。製品を分解・原材料に戻すことなく、そのままあるいは洗浄等の整備をするだけで商品価値を落とさないリユースが拡大することで、ブランディングの観点からもリユースの価値が上がってくることが予想できます。2021年はコロナ禍におけるリユース市場の動向に要注目です。
3. PaaSまたはサービサイジングの真価
サーキュラーエコノミーにおける有効なビジネスモデルの一つとして、PaaS(製品のサービス化)またはサービサイジングが挙げられています。サーキュラーエコノミーにおけるPaaSの特徴は、従来の継続課金やサブスクリプションの視点に加えて、すでにある資源を長く使い続けるという循環性の視点が加わっていることです。製品の所有者をユーザーから製造者・サービス提供者に移管することで、製品の長寿命化・回収・修理・再利用を通じて原材料や製品を長期間維持することが製造者・サービス提供者のインセンティブになるという観点を持つということです。詳しくは、こちらをご参照ください。
ただ、サーキュラーエコノミーを具現化するビジネスモデルといえども、すべてをPaaSモデルに移行すればいいかというと一概にそうともいえません。PaaSにおいては、個人の価値観や経済状況・社会の文化的背景などが複雑に絡み合っています。一般的に、PaaSに適した製品は、愛着を持ちにくい製品や衛生面に不安を感じないもの、高額な商品だといわれています。これらの親和性のある製品群にはPaaSモデル導入の検討をするに値するかもしれません。
一方で、これらの条件に関わらず、価格を上回る価値を提供できればこの限りではありません。例えば、15万円の洗濯機をそのまま月額1000円などにするサブスクリプションモデルに加え、顧客から集めたデータを使って最適な洗濯方法を提示するアプリや、洗濯機の定期クリーニングなどのサービスが付帯されていればどうでしょうか。そして、その洗濯機はマイクロプラスチックが排出されず、さらに100%再生資源で作られ、返却後も循環するスキームと技術があれば、消費者や投資家の高まる環境配慮要請に対応する価値が提供できるでしょう。
2021年は、PaaSモデルがサーキュラーエコノミーの観点と結びつくことと、従来の概念を打ち破る付加価値を持った仕組み・サービスづくりが模索されるのではないかと考えています。
4. 循環度(サーキュラリティ)測定
サーキュラーエコノミーをメインストリーム化させ、実践レベルで活用するには、定量的な評価が欠かせません。その定量的評価として、循環度(サーキュラリティ)測定ツールの開発が急ピッチで進められています。
下記は、循環度測定をするいくつかのメリットです。
- 数値化による現在の立ち位置の明確化
- 今後の進む方向性の提示
- 経年変化を確認し改善点を提示
- 組織内部、特にトップマネジメント層への訴求
- 人事考課の一部に統合することが可能
- (公開をすれば)外部への透明性を確保
- 投資家に対する明確な指標となる可能性
- 環境影響全体を評価できる
特に最後の点(「環境影響全体を評価できる」)は重要です。例えば、リサイクルに多大なエネルギーを要している場合、再生可能な天然資源を使ったほうが実は循環度は高いかもしれません。新しい製品を循環型でつくるよりも、既存製品の現存価値を最大化するビジネスモデルのほうが実は循環度が高いかもしれません。PaaSモデルの導入によって、物流や容器包装の増加に伴うCO2排出量が実は大きく増える可能性があるかもしれません。
消費者や生産者にこのような事実を気づかせてくれるのが循環度測定です。
すでにエレン・マッカーサー財団のCirculytics、WBSCD(持続可能な発展のための世界経済人会議)のCTI(Circular Transition Indicator)、Circle Economy のCircle City Scan Tool、ルクセンブルク政府主導のPCDS(Product Circulality Data Sheet)などの測定ツールが開発されていますが、まだ多くの課題があり、今後データ蓄積による測定の精緻化と幅広い指標の開発が進んでいくでしょう。また、日本でも、サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野に係るファイナンス(ガイダンス)策定が予定され、情報開示や対話が促される環境が整備されていく方向にあります。
現状、CO2排出量などの明確な指標を示しにくいサーキュラーエコノミーの概念が、資源循環度等の数値化や投資基準を明確にすることで、さらなる普及につながるでしょう。
5. 自治体とサーキュラーエコノミー
これまで自治体は廃棄物管理政策を推し進めてきましたが、さまざまな制約条件から、年々改善のハードルが上がっている状態にある自治体は少なくありません。従来の廃棄物管理や規制に加えて、そもそも廃棄物が出ないような循環型の仕組みを設計することが求められています。
今後は、例えば、近郊農業や域内の再生材活用によるショートサプライチェーンの構築、民間事業者とのタイアップを通じた再生型商品設計へのアプローチ、高度なデジタル技術を通じたリサイクルスキームの開発など、3Rから一歩前進した取り組みが進んでいくでしょう。
国内の例を挙げると、京都府京都市では食品の販売期限の延長を事業者と取り組むことやプラスチックに「京もの」を掛け合わせてプラ削減、東京都ではリユース容器を利用した商品提供プラットフォーム「Loop」と共同の取り組み、徳島県上勝町では花王株式会社と詰め替え容器のリサイクルを、それぞれ製品や仕組みの「設計」に多方面のステークホルダーとともに切り込んで、新しい取り組みを始めています。他にも数々の取り組みが始まっています。キーワードは、「『Design from waste(廃棄物から設計する)』から『Design out waste(廃棄部をあらかじめ出ないように設計する)』に移行する」です。
そして、日本政府は2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ目標に向けて、2030年までにモデル地域で脱炭素化に集中的に取り組む自治体が次々に他自治体に波及していく「脱炭素ドミノ」という用語を、「地域脱炭素ロードマップ」の素案のなかで使いました。地域の事情に即したサーキュラーエコノミーをめぐる課題に取り組み、「サーキュラーエコノミードミノ」を起こしていくことも移行に向けた鍵になります。その点においても、自治体とサーキュラーエコノミーというテーマが注目されるでしょう。
以上、筆者が2021年に注目するサーキュラーエコノミー5つのテーマを考察しました。読者の皆さまが5つをピックアップするとしたら、どのようなものになるでしょうか。Circular Economy Hubでは、2021年もサーキュラーエコノミーが本質的に目指すことに焦点を当てながら、皆様の活動の参考になる国内外の情報発信に取り組んでまいります。
【関連記事】サーキュラーエコノミーと気候変動対策の関係とは?エレン・マッカーサー財団レポートより
【参照レポート】CREATING A SUSTAINABLE FOOD FUTURE
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