2023年、地球の限界を示す「プラネタリー・バウンダリー」9指標のうち6つの指標が限界を超えたと研究者らが発表した(1)。「気候変動」や「土地利用の変化」といった指標が限界を超え高リスク域に近づくほか、生物多様性などを表す「生物圏の一体性」はすでに高リスク域を突破している。人と自然の関係性が問われるなか、2050年には人口の7割が暮らすとされる(2)都市の循環経済と自然再生を目指す動きが欧州で活発だ。これらは気候変動対策の一貫でもあり、持続可能な繁栄の手段としても捉えられている。

世界の循環経済移行に向けて活動する英エレン・マッカーサー財団(EMF)は2024年7月に公表した報告書「Building Prosperity(豊かさの構築)」で、都市の循環経済と自然再生(ネイチャーポジティブ)に資する6つの方策について、EUにおける経済効果を試算した。本連載では、同財団が描く豊かな都市の具体像について、経済効果算定の根拠として公開された仮定や数字をもとに掘り下げつつ、日本の現状を考える。

前回の記事では6つの方策とその選定基準、および「土地と建物の再生(ブラウンフィールドを再開発する/空きビルを転用する)」について解説した。

本記事では、「都市の自然の最大化(都市を木で覆う/緑地と水域を増やす)」について解説する。

都市の緑地率45%を目指す理由

都市に自然が必要だといわれるのは、CO2吸収や生物多様性のためだけではない。都市において木々や緑地・湿地は、温暖化により加速する都市の「過熱」を防ぎ、洪水リスクを低減し、人々の心を健康にするといわれている。

先述の報告書は経済効果算定にあたり、都市における緑水地の比率「45%」を2035年までの目標として設定した。そのうちの努力の「8割」を樹木の増加に向けるよう勧める。

根拠の一つは、ポーランドの首都ワルシャワを調査した研究だ。この研究で調査対象となった地域は「複数階建てのアパートの集合体からなる住宅地」。都市中心部に近い通勤圏だ。調査では、緑水地が45%以上あれば、1)洪水への耐性があり、2)干ばつを防ぎ、3)ヒートアイランドを防ぎ良好な気温・湿度を保つ、という効果が認められた(3)。

これを受けて報告書は、「緑水地の比率が45%に均等に分散されることが、すべての都市が機能的で回復力があり、住みやすい都市の自然生態系を提供し、EUの炭素削減目標に大きく貢献するための転換点となるだろう」としている。

EUにとって「45%」は現実的な数字でもある。報告書によるとEUの「ネイチャーポジティブな都市」上位20カ所の緑地率(Green cover rate)は平均51.5%、その他の都市は平均42%(出典:欧州環境庁)。すでに少なくない数の都市で、緑地率45%を超えている。なお、ここでの「緑地率」は「緑水地の比率」と同義で、水地も含む。

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