2023年、地球の限界を示す「プラネタリー・バウンダリー」9指標のうち6つの指標が限界を超えたと研究者らが発表した(1)。「気候変動」や「土地利用の変化」といった指標が限界を超え高リスク域に近づくほか、生物多様性などを表す「生物圏の一体性」はすでに高リスク域を突破している。人と自然の関係性が問われるなか、2050年には人口の7割が暮らすとされる(2)都市の循環経済と自然再生を目指す動きが欧州で活発だ。これらは気候変動対策の一貫でもあり、持続可能な繁栄の手段としても捉えられている。
世界の循環経済移行に向けて活動する英エレン・マッカーサー財団は2024年7月に公表した報告書「Building Prosperity(豊かさの構築)」で、都市の循環経済と自然再生(ネイチャーポジティブ)に資する6つの方策について、EUにおける経済効果を試算した。本連載では、同財団が描く豊かな都市の具体像について、経済効果算定の根拠として公開された仮定や数字をもとに掘り下げつつ、日本の現状を考える。
第一回記事では6つの方策とその選定基準、および「土地と建物の再生(ブラウンフィールドを再開発する/空きビルを転用する)」について、第二回記事では「都市の自然の最大化(都市を木で覆う/緑地と水域を増やす)」について解説した。
本記事では「建築設計と材料利用の最適化(材料効率の良い設計/環境負荷の低い材料を使う)」について考える。
モジュラー工法で材料使用量を減らす
まずは設計の工夫により材料の使用量を減らす。そのうえで材料の環境負荷を低減する。これが同報告書の目指す、材料の「最適化」だ。
同報告書は「材料効率の良い設計」により、2035年までにEUはコンクリートの使用量を30%、鉄を33%減らせる(それぞれ2022年比)と算出する。内訳は以下のとおりだ。
- モジュラー工法などによる効率化 →コンクリート・鉄の量が15%削減される
- 一戸建て住宅に対する集合住宅の割合増(25%→55%) →建設資材が8-12%削減される
- 生物由来の建材利用増(従来の5倍) →コンクリートの量が7.7%削減される
上記によれば、最も影響が大きいのはモジュラー工法だ。モジュラー工法は、室ごとのユニットを工場で組み立て、現場に運んでからユニットを組み合わせる建設方法。従来の工法と比べて建設費が安く、工期も短いといった利点から、住宅需要が高まる欧州で拡がりを見せている。
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