コンサルティング会社の独ローランド・ベルガーはこのほど、報告書「自動車サーキュラーエコノミー~欧州Catena-Xは何をもたらすか~」を発表した。

報告書は、自動車業界のアライアンスであるCatena-Xが社会にもたらす影響を考察した。Catena-Xは、2021年にドイツの自動車メーカー・サプライヤー・上流の素材メーカー・研究所・政府機関などが中心となって2021年に設立した。スタートアップや非ドイツ系企業の参画も増えており、2022年9月時点で111組織が参画している。統一プラットフォームを用いた企業間での情報共有と、自動車サプライチェーン全体の透明性や持続可能性の向上を目指している。

主な参画組織は、独自動車大手のBMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、エンジニアリング・テクノロジー企業の独Bosch、ソフトウェア開発の独SAP、自動車部品製造の独ZF、マイクロソフト、化学大手の独BASF、電機メーカーの独Siemens、独国立研究所DLR、独フラウンホーファー研究機構、人工知能とブロックチェーンを組み合わせたプラットフォーム提供の英Fetch.ai。同報告書の概要は、以下のとおり。

近年、サーキュラーエコノミー移行を目指して、企業間連携を伴うイニシアチブが欧州を中心に展開されている。自動車業界において、データ共有を通じてサプライチェーンの効率化や強靭化・CO2排出量削減・事業機会創出などを目指すCatena-Xは注目に値する。Catena-Xは現在、基本的規則を定めるべく議論を継続しており、中小企業を含めた多様な企業の参画を促すための準備を進めている。

Catena-Xの目標が達成されると、下記の8項目が実現されると想定される。

  1. CO2・ESGの監視:CO2排出量のデータが世界で同じデータ形式で正しく共有・可視化され、CO2排出量が見える化・削減される
  2. サーキュラーエコノミー移行:各部品「個体」の製造工程・材料・使用履歴などが可視化され、価値・性能評価が高精度化される。正確な中古査定・リサイクル材料回収を実現できる
  3. 需要・容量の管理:需要量などの情報を予測し、サプライチェーン全体で情報を共有でき、需給の均衡が最適化される
  4. オンライン管理・ 模擬実験:各工程・サプライヤーの稼働・生産実績が見える化され、リアルタイムで管理できる。サプライチェーン全体の障害を特定でき、機械配置の模擬実験なども実施できる
  5. Manufacturing as a Service(サービスとしての製造):生産能力やケイパビリティがデータでつながり、空き稼働を見える化できる。柔軟な生産場所の選定や生産能力の最大稼働を実現できる
  6. モジュール生産:生産工程のデータ共有を通じ、モジュール生産方式を構築できる。すべての工場・ラインの工程が統一され、納品リードタイムや管理コストを削減できる
  7. リアルタイムの品質ループ:走行中の車両・部品もデータでつながるため、リアルタイムで品質管理できる。迅速な修理・交換や予知保全、部品の顧客生涯価値の最大化につながる
  8. デジタルツイン化:車両周りの全データがデジタルツイン化され、車道を取り巻く都市の安全性や、モビリティ・物流・人流関連サービスの利便性が向上する

今後データは共有財となり、需要と供給の最適化、資産の高稼働・平準稼働、全体最適化を実現する重要な手段となる。Catena-Xはこれらを実現するための「データ共有の器」であり、サーキュラーエコノミー移行を推進するべく、企業は自社事業へのCatena-Xの活用方法を考え実行する必要があるとしている。

サーキュラーエコノミー移行には、メーカー・小売・回収・リサイクル企業・消費者の協働が不可欠とされており、サーキュラーエコノミー推進を通じて、さまざまな連携が生まれオープンイノベーションなどにつながることが期待されている。世界経済フォーラムが主導するサーキュラー・カー・イニシアチブ(CCI)は報告書のなかで、自動車の循環型バリューチェーン構築工程において多組織とイニシアチブを創造することを奨励している。自動車のサーキュラーエコノミー移行に向け、多くの組織が参画する自動車業界のアライアンスであるCatena-Xの今後の展開が注目される。

【プレスリリース】自動車のサーキュラーエコノミー欧州Catena-Xは何をもたらすか
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