本記事で紹介しているエレン・マッカーサー財団のオンライン学習プログラム「From Linear to Circular」の内容を基に、9月1日~11月24日にかけてCircular Economy Hub主催・全7回のオンライン学習プログラム「エレン・マッカーサー財団から学ぶサーキュラーエコノミーの全体像 ~ゲストセッション付き~」を開催いたします。本記事の内容を基にさらにサーキュラーエコノミーに関する知見を深めたいという方はぜひご参加ください。


Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミーの実現を目指す国内外のさまざまな動きを発信している。そもそもサーキュラーエコノミーとはどのようなもので、実際の社会に適応されるとどのように機能するのかーー。サーキュラーエコノミーについて理解を深めるため、筆者はエレン・マッカーサー財団が10週間にわたって提供するオンライン学習プログラム「From Linear to Circular: Open to All」に参加している。そこで得た学びを、毎回レポートする。

※本レポートは、エレン・マッカーサー財団に許可を得たうえで、講義内容等を掲載したものです。

これまでの講義レポートはこちら

第1回「サーキュラーエコノミーとはそもそも何か?
第2回「サーキュラーエコノミーのためのデザイン
第3回「循環するビジネスモデル
第4回「次の段階のサーキュラーエコノミー
第5回「プラスチックのサーキュラーエコノミー
第6回「サーキュラーエコノミーと都市~建築、交通、食糧システムを変える~
第7回「ファッションのサーキュラーエコノミー
第8回「食のサーキュラーエコノミー
第9回「サーキュラーエコノミー移行のためのツール
第10回「壮大な見取り図

今回のゲストスピーカーは『自然資本の経済「成長の限界」を突破する新産業革命』(日本経済新聞出版)の著者の一人で、再生可能な資源と環境の第一人者、ハンター・ロビンス氏だ。35年にわたり持続可能な開発に携わってきた。現在は自らが立ち上げたナチュラル・キャピタリズム・ソリューションズというNPOの代表理事を務める。これまで複数のサステナブルビジネスについてのMBAプログラムを立ち上げ、現在米バード大学でも教鞭を執るなど教育者としての顔も持つ。

今回の講義は、サーキュラーエコノミーの基本となるエネルギーのあり方から、エネルギー消費の大きい農業をサーキュラー化させるあり方に至るまで、これまでの知見・経験を織り交ぜながら惜しみなく共有してくれる場となった。

*これより以降は、プログラムのなかで話された同氏の考えや見解を掲載したものです。

活動家になる以外の人生なんて選択肢になかった

思い返せば、私には社会・環境活動家になる以外の選択肢なんてそもそもありませんでした。私の母はジョン・ルイスとともにウェストバージニア州の炭田で働く炭鉱労働者たちを集め、労働条件改善の交渉をするための組合を作っていました。私の父は全国農場労働者協会(後の統一農場労働者組織委員会)を組織し、農場労働者の権利を勝ち取ることにその生涯を捧げた公民権運動家セザール・チャベス氏と、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏の手助けをしていました。

駆け出しの頃はフェア・ハウジング(住居を貸す相手を人種などによって差別することを許さないこと)と公民権運動に携わりました。そして1960年代にはベトナム戦争反対運動、1970年4月22日には初めてのアースデイで植樹を行いました。ソーシャルチェンジを起こすために必要だと考え、法律を大学で勉強しましたが、私に本当に必要なことは他にあると感じたため大学を辞め(もちろん素晴らしい環境法律家は数多く存在します)、森林の専門家と環境教育者になりました。

その間、100万本ほどの木を植えたでしょうか。その後エネルギー政策に関わるようになりました。私たちの直面している課題の多くが、エネルギーへの無理解・誤用・誤配置により引き起こされていると感じたからです。1972年当時は、まだエネルギー政策は石油会社や電力会社、ガス会社などの一部の産業だけに関わる話だと考えられていました。しかしその後の1973年に第四次中東戦争によって第1次石油危機が起きると、急速に影響が連鎖し、社会全体の課題だという認識が広がりました。1976年にはエモリー・ロビンス氏と手を組み、ロッキーマウンテン研究所を創設してソフトエネルギー(風力や太陽光など環境に悪い影響を与えないエネルギーの総称)アプローチを普及させる活動を20年ほど続けました。以降、人と地球に優しい、しかし同時に収益性も両立できるようなエネルギー政策を考えています。その後、2002年にナチュラル・キャピタリズム・ソリューションズを立ち上げ、活動を続けています。

私たちは、すべてが作り変えられる歴史的瞬間の証人になる

『Limits to Growth(成長の限界)』の著者ドネラ・メドウズは生前、このまま産業・汚染・人口を成長させ続ければ、2015年から2030年の間のどこかで必ず仕組み全体が崩壊すると言いました。このパンデミックについても必ず起こると言及していたのです。環境の危機と不平等という問題についても。しかし同時に、彼女は自分が生きている間には見られないかもしれないけれど、人類はきっと変化を起こすと信じていました。地球が壊れてしまう前に。そこでドネラに聞いてみました。『私たちに残された時間では間に合うのでしょうか』と。彼女はなんと答えたと思いますか?

「今始めたなら、きっとぎりぎり間に合うでしょう」

それが彼女の答えでした。

現在存在する多くの産業のビジネスモデルは絶滅し、新しいものに作り変えられていくでしょう。先進国経済の70%が再生ではなく、消費によって生み出されています。これを私たちは再生する経済に作り変えていくでしょう。インダストリアル・エンジニアの同僚はよく「私たちはこれからすべてをre-invent(再発明)できるのね」と目を輝かせています。ものすごくワクワクする瞬間に生きていると思いませんか?私たちは、本当の価値を人々に提供するビジネスモデルを考え出す必要があります。さらに、ケイト・レイワース氏が考えた、人間の最低限の生活は保証するけれども地球環境を著しく破壊しない境界線を超えないという、ドーナツ経済の目標を達成しなければいけません。

今の私たちには、気候危機を解決するためにやるべきことがすべてわかっています。あとは実際にやってみるだけです。

私たちがもっとも喫緊の課題として取り組まなければならないのが、気候危機です。今取り組まなければ地球上の生き物は失われてしまう。それに取り組むためには3つの最優先分野があります。再生可能エネルギー環境再生型農業、そしてサーキュラーエコノミーです。そしてその前提となるのは、不平等の解決です。

コロナは不平等をあぶり出した

新型コロナ危機でマイノリティグループは経済的・社会的により多くの危険にさらされているため、人種差別的な被害をもたらしています(さらに言うと、人種の不平等はある種の生物多様性の危機でもあります)。多くの命が危機にさらされ、失われています。悲劇としか言いようのないことです。しかしこの危機は、私たちが一人残らず立ち上がり、すでに明らかになった答えとともに、新たに機能する仕組みを作るきっかけをもたらしてくれました。

不平等に対して、人々が立ち上がって声を挙げていることを心から素晴らしく思います。もちろん、まだまだパンデミックは収束しておらず、デモをするにも感染症が広がらないように工夫する必要はあります。しかし、アメリカでは『私たちは警察に殺されなくても不平等によって殺されてしまう』と多くの人が感じています。だからこそ、人々の尊厳のために声を上げている。私たちは、人生の一日一日をこのように生きるべきではないでしょうか。そしてそれは、どこまで『私のライフスタイルは、他の誰かの尊厳を傷つけ、犠牲にすることで成り立っている。そんなものは必要ない』と言えるかにかかっています。

イギリスに本社を置くサステナビリティの経営とマーケティングコンサルティングを行うFutera社は、これからの世代について調査を行いました。そのなかで、彼らはZ世代のことを正直な世代(honest generation)と呼んでいます。彼らは正直な誠実さと透明性を求めています。人々の尊厳や暮らし、人生を破壊する経済には加担しないと言っています。ミレニアル世代にとってのロールモデルはマーク・ザッカーバーグ氏でしたが、Z世代にとっては環境活動家のグレタ・トゥンベリ氏です。あなたには変化の大波が押し寄せるのがわかるでしょう?これからを担う世代は、不平等と不誠実を選びません。

化石燃料から再生可能エネルギーへ

化石燃料の消費量のピークは2020年。コロナ後のグリーンリカバリーはチャンス

イギリスのCarbon Trackerという組織が数年前、ある試算を発表しました。この地球には化石燃料がどのくらい残されているかというものです。それをまとめた報告書によると、地球に残されている化石燃料は約268兆円分であり、人類としての化石燃料使用量のピークは2023年だと。これは2018年9月時点の予測でしたが、今では更新されて2020年と変更されました。つまり今年、私たちが使っている化石燃料の総量がピークを迎えます。今が分岐点なのです。

すでに変化の年を迎えてしまった私たちには、やるべきことが多くあります。特に、リニア型のエネルギーや資源採掘に携わる仕事をしていた人たちの多くは職を失うでしょう。彼らを太陽光パネルの専門家にする、などの教育・研修機会を作り出すことが求められます。電力・エネルギー産業をまるごと変えてしまう必要がある。電力・エネルギー産業は、これまで大きな発電所を作ることで私たち消費者から公正な価格を徴収してきました。言い換えれば、私たちは社会システムという名のもとに、化石燃料に投資させられていたのです。

私はその代わりに、自分の家の屋根の上に5kW分の太陽光パネルを取り付けました。街が停電しても、私は自家発電とガレージのバッテリーを使うので、全く影響を受けません。今この瞬間家にいませんが、その間もずっとコロラドの太陽は家の太陽光パネルに降り注ぎ続け、私は電力会社に電力を売っています。もしもすべての人がこれを導入すれば、電力会社なんていりません。一方で、電力会社は電力の過剰分を足りないところに動かすことができます。この分配機能は新しいエネルギーの時代に必要とされるでしょう。

欧州連合は、コロナ危機からの復興のために捻出される予算の4分の1を気候変動の対策に使わなければならないとして今議論が行われています。これは非常に大きな一歩です。わたしたち一人ひとりが実践しなければならないことは、自分の国に「グリーンリカバリー」を要求することです。政治にアクティブにならなければいけません。政治家にとって最も恐ろしいのは声を上げる人々なのですから。

水素はあくまでも不足分を補うため。原子力は論外

基本的にエネルギーは太陽光と風力で賄うべきでしょう。水素はエネルギー源ではなく、エネルギーを貯蔵するための「電池」のようなものと言えばいいでしょうか。水素には魅力的な機能が多くあるのは確かです。水素は、得る方法によってはクリーンなエネルギーと言えます。太陽光エネルギーと風力エネルギーを潤沢に得られる環境を作り、水の電気分解をしつつ、水素を用います。水素は小さな容器に入れて太陽光と風力が足りないときに、補佐的な電池として使うことができます。しかし地域によってコストに差が出るため、水素が必ずしも良いというわけではありません。

最近のコロラド州での電力供給の公募では、太陽光が1kWhあたり1.3セントだったのに対し、太陽光+風力+水素は3セントでした。いつも太陽が照りつける地域は太陽光発電が強く作用し、逆に日照時間の短い季節が長い緯度の高い国々は、あくまでも太陽光・風力を補佐する役割として水素エネルギーの恩恵を受けることになるでしょう。

また、原子力は全くクリーンではありません。原子力発電所を稼働するためにはウランを核分裂させる必要があります。では、ウランはどこからくるのでしょうか?地面から掘り起こすしかありません。多くの場合、オーストラリアの北部やアメリカの南西部から採掘しますが、非常に環境ダメージが大きく、汚染がひどい。そして、その採掘したウランを濃縮します。原子力発電によるエネルギーは1kWhあたり20セント。そして現在太陽光発電は1.3セント。そもそも原子力なんてもってのほかなのです。現在原子力発電所がまだ稼働している国があるとしたら、大量の補助金で成り立っているだけに過ぎません。コストも膨大ながら、原子力発電所は将来長くにわたりその土地を汚染します。そのコストを計算に入れたら、こんなエネルギーを選ぶこと自体正気の沙汰とは言えません。私は、自分が支払う税金をより安く環境に良い太陽光エネルギーと風力エネルギーに使いたい。

次世代エネルギーとも言われるバイオマスエネルギーは、何を資源とするかによって再生可能であるかが変わってきます。インドネシアのパーム油を原料とするならば持続可能ではなく、再生可能でもありません。種類によっては、経済的に、もしくは持続可能性の観点からも再生可能だと言えるものはあります。しかし、ほんのごく一部です。そして何より、バイオマスは必要ではありません。

一つだけ有用だとすれば、車がすべて電気自動車に移行するまでの間だけ、ガソリンに代替して使用することです。しかし、私は電気自動車が良いと考えています。私の家では、自家用車の日産リーフが太陽光パネルからの太陽エネルギーで充電されています。私たちは経済を電気に移行する必要があります。また、太陽エネルギーも太陽光パネル自体がごみになるという意見があります。これは間違いありませんが、太陽エネルギーを選ばない理由にはなりません。太陽光パネルをサーキュラーデザインの原則で作り直せばいいだけです。電池も同じです。私のガレージにある電池は、(電池に使われる)リチウムイオン電池リサイクリングに取り組む企業の製品です。先ほど「すべてを再発明しなければいけない」と言いましたが、本当にすべてを、なのです。

変わる潮目・再生可能エネルギーが格安に

これまで世界30カ国の人たちとともに仕事をする機会に恵まれましたが、今、まさに潮目が変わるのを感じています。現在はスイスに拠点を置くエネルギーや環境問題に取り組むシンクタンク、ローマクラブとともに、今回の新型コロナによる経済的打撃からのグリーンリカバリーの具体案を作っています。同様に、コロラド州知事から、州のリジェネラティブな復興計画を設計するように依頼を受けて動いています。

今朝、ローマクラブが作った世界中の200人の活動家からなるClimate-Planetary Emergencyとビデオ会議していた時のことです。参加者らと再生可能エネルギーは化石燃料よりも安いか?という議論をしていました。そこで驚きました。今のアラブ首長国連邦の首都アブダビでは、太陽光発電による電力の価格が、コロラドと同じく1kWhあたり1.3セントなのです!どんな化石燃料でも、手も足も出せないほど破格に安いのです。1kWhあたり20セントもかかる原子力発電は論外です。比較的効率よく発電できるとされる液化天然ガスでさえも、1kWhあたり4〜6セントかかります。

知っていますか?実はこの数カ月間、イギリスは再生可能エネルギーのみで稼働しています。理由は簡単で、太陽光発電の方が火力発電よりもよっぽど安いからです。

私がこの世界に入った1970年代、この変化の瞬間を自分が生きているうちに目撃することになろうとは思ってもみませんでした。そんなことが今起きているのです。

確かに、なかなか変わらず、あいも変わらず同じ議論を続けているだけのように感じられる分野もあります。私たち納税者は多額の税金を収めているのに、多くの国の政府はその税金を公的資金として化石燃料や原子力に投入しています。そうして優遇することで、化石燃料の方が安いように見せかけている。しかし今、再生可能エネルギーの価格は格段に安くなり、どんな化石エネルギーよりも安い。それが今の事実なのです。正直言って、私はこの変化が起こるまで生きていると思いませんでした。

私のかつての上司、地球の友の創業者デイビット・ブラウアーや、「Limits to Growth(成長の限界)」の著者ドネラ・メドウズ、社会的責任を取る企業の価値を信じた素晴らしいリーダー、レイ・アンダーソンを知っていますか。みんな私の親しかった人たちで志をともに活動してきましたが、この変化を見る前に亡くなってしまった。しかし、私はいつかこの変化が訪れると信じていました。絶対に。

環境再生型農業はすべてを「還す」

環境再生型農業とは、すべての観点で「還してくれる」農業を意味します。土壌にも、農家にも、小屋にも、コミュニティにも。取るよりも多くのものを与える農業です。化学薬品や重機を必要としない、太陽を中心とした農業です。環境再生型農業には様々な形があります。

アメリカで有機農業の研究を行うロデール研究所は、再生する(リジェネラティブな)方法で野菜を育てると、作業工程で発生する二酸化炭素排出量と同じかそれ以上の量の炭素が吸収されて土壌に戻される炭素隔離(sequesteration)を起こすことを発見しました。

再生型放牧はさらに面白い。放牧されている動物が草を食べると、根からある種の糖分が分泌されます。すると土の中にいる生き物、特にきのこなどの菌類がその糖分を食べることで、自然の中の有機物や動物の排泄物などからくる炭素を石化します。アメリカ大陸で3メートルもの黒い地層が発見されたことがありますが、この黒いものはすべて炭素でした。草原の草の根は長いため、地中の奥深くに炭素を送り込んでいたのです。私たちはこれを無理に地表に引っ張り出し、野菜が育たなくなると、その一部を化学肥料として土に混ぜ込むことで野菜などの農作物を育ててきました。

しかしリニア型の農業では土に炭素が残りません。結果土壌は痩せ続けてきました。しかしこれももう長くは続かないでしょう。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、このままリニア型の農業が続くならば、あと60回分ほどの収穫で土を食いつぶしてしまうというのです。さらに、土は海面が上昇することで削り取られてしまっているのでその速度は予測よりも早いことになります。

ある時、トウモロコシと大豆を栽培する男性は、出費を抑えなければ倒産してしまう状況にありました。畑で採れる農作物は年を追うごとに減っていき、より多くの化学肥料を買わなければならなくなっていました。彼はお金がないので、藁にもすがる思いでコストを削減できる不耕起栽培を始めました。不耕起栽培とは文字通り土を耕さないで農作物を栽培する方法です。刈り取った後の株などを捨てないでそのままにし、それがミミズなどの餌になり、養分が分解されて土に戻されることで、土壌環境が改善する効果が期待されます。

次に彼は、被覆作物を植えました。被覆作物とは、土が雨風で侵食されるのを防ぐために、地面を覆うように茂る植物を植えることです。牛たちはこの被覆作物を食べるので、牛用の干し草を買う必要がなくなりました。

こうして、彼は化学肥料・除草剤・殺虫剤を全く必要としなくなりました。彼の農業は収益性が上がり、土壌有機物の比率は2%から11%まで上昇しました。土壌有機物の比率が1%上がるごとに、年間4000平方メートルあたり5トンの炭素を地中に還していることを意味します。

 Image via Savory Institute

1990年代から、彼は毎年この方法の農業を続け、収益を上げながらも炭素を地中に還し続けています。実はこれは、セイボリー研究所の創業者で農業と環境研究のパイオニア、アラン・セイボリー氏の話です。彼らの活動は多くの農家に影響を与え、近年放牧は主流になりつつあります。カゴの中で産業的に行われていた家畜とは違い、放牧される牛の群れは草を食べ、その上で用を足し、土を踏み、混ぜることで炭素などの養分を地中に還します。現在イエローストーン国立公園では、牛が通ったあとの土地に植物が多く生えるようになったといいます。

また、都会に住み多くの土地がない場合でも、コンポストを使えば同じことができます。ニューメキシコ州立大学のデイビッド・ジョンソン博士は研究を行い、家畜の糞尿と有機廃棄物を混ぜ、菌類からなる粉状のものを接着剤として混ぜると炭素は土に還り、4000平方メートルあたり年間15トンもの炭素を土に還すことを発見しました。もし私たちが世界の牧草地の炭素含有量を、4000平方メートルあたり年間1トン上昇させることができたなら、大気中の二酸化炭素濃度を30年ほどで産業革命前の水準まで下げることができるといわれています。

もちろん、世界中すべての牧草地というのは非常に大きな目標かもしれません。しかし、先程お話したとおり、これは収益性が上がる方法なのです。現に、アメリカでは大手含む多くの農家がこの環境再生型農業に移行しています。経済的に旨味の大きいビジネスなのです。農業においてさらに環境再生型農業に公的資金も投入されるでしょう。こうなれば、もう環境再生型農業以外の選択肢はありません。

問題は、肉食ではなくリニア型の農業というやり方

近年、多くの人から肉食は大きな環境負荷をもたらすため、やめた方がいいのかという質問を受けます。そして私が決まって言うのは、「It’s not the cow but the how(牛ではなくやり方)」です。悪いのは、牛ではなくリニア型の農業です。

牛はメタンガスを排出するから環境に悪いという人がいますが、牛は土に向かってゲップをし、そのほとんどを細菌が食べてしまうのを知っていますか?すべては再生し、循環しているので、どこかで何かが滞ったり、過剰に発生したりすることはありません。

一方で、産業的な酪農はどうでしょうか。小さな檻に牛を閉じ込め、どこかから買ってきたトウモロコシや大豆を食べさせ、そこでゲップをすれば、発生するメタンを食べてくれる細菌もいません。そもそも牛はこのようなものを食べるようにできていません。また、牛に食べさせるためだけにトウモロコシや大豆を育てる大規模農業が世界で行われていますが、非常に持続可能ではない方法で行われています。

したがって、悪いのは牛ではなく、やり方です。再生型放牧へと移行することが必要なのです。実際私も牛を草原で育てていますし、その生命をいただくこともあります。

Image via Savory Institute

世界で急速に進む環境再生型農業への移行

これまで表に出てこなかったかもしれませんが、今回ヨーロッパのグリーンディールに環境再生型農業が明記されることとなりました。アメリカのグリーン・ニューディールの中でも言及されています。世界は急速に環境再生型農業に向けて進んでいます。コロナ危機からの回復のための金融策として世界中の大金が動く今、そのお金がどこにいくか注視しましょう。

ローカルコミュニティの支援、地域文化は重要です。「従来型」のビジネスに使われるお金もあるかもしれません。しかし、一部でも環境再生型農業に使われれば、農業は大きく変わるでしょう。農家には地中に炭素を還した分の炭素クレジットを渡すことができれば、さらにこの動きを加速できるはずです。そうすれば、環境破壊を巻き戻し、危機を救うことができるのです。そして、再生型放牧をしましょう。

世界人口に必要な量の食料を供給する条件

国連食糧農業機関(FAO)は、地球上の7割の食物が小さな農家によって生産されていることを明らかにしています。この現状を見ず、リニア型農業ですべての人に食料を供給しようと考えることは論外です。産業革命より前の農業では、1カロリーのインプットに対して2.5カロリーのアウトプットを得ていました。それが、今は1カロリーのアウトプットを得るためだけに10カロリーのインプットが必要となっています。これでは続けられるわけがありません。現在、小さな農家は市場にアクセスするうえで不利な構造になっています。リニア経済のなかでは、産業的な大企業が圧倒的に有利な仕組みになっているからです。これを変える必要があります。そして今、それを変えられるだけのお金が環境再生型農業に流れ始めている。

今環境危機から脱するために最も必要なのは、環境再生型農業です。大気中から二酸化炭素を取り出し、本来あるべき地中に戻さなければいけません。再生可能エネルギーと合わせることで、私たちはこの先10年で環境危機を乗り越えることができるでしょう。

今日私が今回お話ししていることは農業を一般化したことに過ぎません。これをそれぞれの土地に「ローカライズ」する必要があります。世界中どの土地もその地域ならではの特性があります。独自の物質を含み、独自の生態系が広がっているのですから。

サーキュラーエコノミーをよりリジェネラティブに

サーキュラーエコノミーの3原則のうちの最初の1つ目「ごみ・廃棄を出さない設計」と、2つ目の「製品と資源を使い続ける」は多くの人が実践しています。しかし、どうも3つ目の「自然のシステムを再生する(regenerate the natural systems)」が抜け落ちてしまうことが多いようです。これは、私たちはまだまだリジェネラティブな経済とはどういうものか解明する段階にあるからです。

アメリカで人類の持続可能性を考え続けた思想家、バックミンスター・フラーは次のように述べています。

「再生性(regenerativeness)は宇宙の大原則だ」

リジェネラティブな(再生型の)金融経済の推進を行うアメリカのシンクタンク、キャピタル・インスティチュートは、リジェネラティブエコノミー(再生型経済)の8原則を次のように定めている。

  1. In right relationship(正しい関係性)
  2. View wealth holistically(富を包括的に見通す)
  3. Innovative, Adaptive, Responsive(革新性、適応力、反応力)
  4. Empowered Participation(参加促進)
  5. Honors Community and Place(場とコミュニティを大切に)
  6. Edge Effect Abundance(エッジ効果:生物の生息地の境界部分が外部からの影響を強く受けることが多発する)
  7. Robust Circulatory Flow(力強い循環)
  8. Seek Balance(バランスが保たれる)

そう、この8つのうちの7番目、「力強い循環」はサーキュラリティなのです。私たちの体の中を血が循環し、栄養が大気と地中を循環することそのものです。この8つの原則に従えば、そこから出てくるのは何であれ、再生型となるでしょう。サステナビリティとは目的ではなく、環境再生型の仕組みの結果なのです。

エレン・マッカーサー財団のオンライン学習プログラム「From Linear to Circular: Open to All」第11回の今回は再生する農業というテーマで行われた。来週は「サーキュラーエコノミーと気候変動、より良い復興のために(まとめ)」をお送りする。

全12回レポートはこちら

第1回「サーキュラーエコノミーとはそもそも何か?
第2回「サーキュラーエコノミーのためのデザイン
第3回「循環するビジネスモデル
第4回「次の段階のサーキュラーエコノミー
第5回「プラスチックのサーキュラーエコノミー
第6回「サーキュラーエコノミーと都市~建築、交通、食糧システムを変える~
第7回「ファッションのサーキュラーエコノミー
第8回「食のサーキュラーエコノミー
第9回「サーキュラーエコノミー移行のためのツール
第10回「壮大な見取り図
第11回「再生する農業
第12回「サーキュラーエコノミーと気候変動、より良い復興のために

【参照サイト】Rocky Mountain Institute
【参照サイト】Natural Capitalism Solutions
【参照サイト】Carbon Tracker Initiative Limited
【参照サイト】Friends of the Earth International
【参照サイト】Rodale Institute
【参照サイト】Savory Institute
【参照サイト】Capital Institute
【参照レポート】IMAGINE BETTER Futerra
【参照レポート】8 PRINCIPLES OF  REGENERATIVE ECONOMY
【関連記事】エレン・マッカーサー財団、サーキュラーエコノミーの無料オンライン学習プログラムを提供開始


本記事で紹介しているエレン・マッカーサー財団のオンライン学習プログラム「From Linear to Circular」の内容を基に、9月1日~11月24日にかけてCircular Economy Hub主催・全7回のオンライン学習プログラム「エレン・マッカーサー財団から学ぶサーキュラーエコノミーの全体像 ~ゲストセッション付き~」を開催いたします。本記事の内容を基にさらにサーキュラーエコノミーに関する知見を深めたいという方はぜひご参加ください。