Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミーの実現を目指す国内外のさまざまな動きを発信している。そもそもサーキュラーエコノミーとはどのようなもので、実際の社会に適応されるとどのように機能するのかーー。サーキュラーエコノミーについて理解を深めるため、筆者はエレン・マッカーサー財団が10週間にわたって提供するオンライン学習プログラム「From Linear to Circular: Open to All」に参加している。そこで得た学びを、毎回レポートする。

※本レポートは、エレン・マッカーサー財団に許可を得たうえで、講義内容等を掲載したものです。

これまでの講義レポートはこちら

第1回「サーキュラーエコノミーとはそもそも何か?
第2回「サーキュラーエコノミーのためのデザイン
第3回「循環するビジネスモデル
第4回「次の段階のサーキュラーエコノミー
第5回「プラスチックのサーキュラーエコノミー
第6回「サーキュラーエコノミーと都市~建築、交通、食糧システムを変える~
第7回「ファッションのサーキュラーエコノミー
第8回「食のサーキュラーエコノミー

測定できなければ改善したかわからない

「What gets measured gets managed.(測定できるものは改善できる)」

これは、オーストリア人現代経営学者で「マネジメント」の発明者、ピーター・F・ドラッカーの言葉だ。本プログラムの司会進行役、エレン・マッカーサー財団のセブは、サーキュラーエコノミーへの移行を目指す企業の取り組みにおいて、測定することの重要性をドラッカーのこの言葉を引用して強調した。

コンサルティング会社や外資系企業で多く取り入れられる「SMART(スマート)ゴール」も同様に、測定できることを目標達成において重要な要素としている。SMARTゴールとは、目標を立てるとき、必ず成果に結びつけるものにするために重要な要素の頭文字を取ったものだ。この要素を抜け漏れなく目標に組み込むことで、曖昧さを回避し、具体的な行動に移し、目標遂行を確実なものにできるとされる。アルファベット「S・M・A・R・T」は、それぞれ次の言葉を意味する。

S:Specific(具体的に)
M:Measurable(測定可能な)
A:Achievable(達成可能な)
R:Relevant(目指すべきものに関連する)
T:Time Bound(時間的制約を設けた)

企業が何かを成し遂げたい場合、測定可能な目標を設定することは必要不可欠だ。逆に、測定できなければ改善したかわからない。これは、企業の仕組みをサーキュラーエコノミーに移行するときも同様だ。

サーキュラーエコノミーへの移行に先進的に取り組む企業の多くは、経営戦略の中心にサーキュラーエコノミーの原則を採用したり、自社内でサーキュラーイノベーションを育む施策を盛り込んだりするなど、さまざまな方法を経営に導入する。このサーキュラーエコノミーへの移行という目標を達成するためには、マテリアルフローやサービスの現状を理解し、どのように改善していくかを知ることが重要だが、不透明なことも多い。これまで、企業がどの程度サーキュラー化に成功しているのか、測定する指標や手段がなかったため、到達度合いも曖昧なものだった。

このサーキュラリティ達成度を測定できるようにすることで、企業の取り組みを後押しし、社会や経済全体を循環するものへと変えていくことを確かなものにできるはずだ。このような指標の必要性の高まりを受けて、エレン・マッカーサー財団は2020年1月、企業のサーキュラーエコノミー到達度合いを測定する無料ツール「Circulytics(サーキュリティクス)」をローンチした。現在までに世界で約500社が導入する。

事業のサーキュラー性を計るCirculyticsとは?

Circulyticsは、企業レベルでのサーキュラーエコノミーパフォーマンス、つまり事業のサーキュラー性を測るツールだ。同ツールを活用することで、サーキュラーエコノミーへの移行を目指す企業は、サーキュラーエコノミーの3原則である「ごみ・汚染を出さない設計」「製品と原材料を捨てずに使い続ける」「自然の仕組みを再生する」を経営に組み込み、自社の製品や資源フローの循環性を定量的に把握・測定することができるようになる。サーキュラーエコノミーを「概念」ではなく「計測・管理可能なデータ」にすることで、企業のサーキュラリティ向上に向けた取り組みを支援する。

自社のサーキュラーエコノミーへの移行に向けた取り組みをCirculyticsを通じて投資家や消費者に向け発信することもできる。

現在Circulyticsを導入する約500社のうち、もっとも多いのがヨーロッパ企業、次いで北米、オセアニア、南米などとなる。導入企業のうち約4分の1にあたる124社が年商10億ドル(約1070億円)以上の大企業だ。

2020年10月頃にプログラムの新バージョンを開始する予定で、このタイミングで中国語・ポルトガル語・スペイン語でも利用できるようになる予定だ(他の言語にも随時対応していく予定とのことだが、日本語については現時点では未定)。新しいバージョンでは、現バージョンに含まれていない水資源の管理についても扱われる。

Circulyticsは、業種や事業規模を問わず企業のサーキュラーエコノミーへの移行をサポートする。製品やマテリアルフロー単体に留まらず、会社のオペレーション全体でのサーキュラーエコノミー化を支援する。Circulyticsを利用することにより、企業は次のメリットを得ることができる。

  • 会社全体としてのサーキュラリティ到達度合いを測定する。製品だけ、マテリアルフローだけなどのような部分的な評価に留まらず、根本的な移行度合いを数値化する。
  • サーキュラーエコノミーを適用するための意思決定と戦略立案を後押しする。
  • 強みと改善余地のある分野を明らかにする。
  • 取り組みを外部パートナーに向け透明化する:投資家や顧客に企業のサーキュラーエコノミー達成度を透明化する。
  • 価値創造を助ける:サーキュラーエコノミー到達度を明確にすることで、主要なステークホルダーらとブランド価値を創り、向上していくチャンスを生み出す。

サーキュラーエコノミー到達度合いを測る指標

Circulyticsが企業のサーキュラーエコノミーの到達度合いを測るために用いる指標は、エレン・マッカーサー財団と13のグローバルパートナー、サーキュラーエコノミー分野の企業間または業界間連携を目指すイニシアチブ「CE100ネットワーク」加盟企業が共同で開発し、2019年の1年間で30社以上が試験導入したうえで改良されたものだ。

サーキュラーエコノミー到達度合いは、サーキュラーエコノミーへの移行を促進する要素に対する評価「Enablers(促進するもの)」の側面と、使用されるエネルギーや資源の総量と廃棄・リサイクルの実施からなる「Outcome(結果)」側面から総合的に判断される。

Enablersの構成要素:5つのテーマ

  1. 戦略と計画:経営戦略がサーキュラーエコノミーの原則に基づいているか
  2. 人とスキル:サーキュラーエコノミーモデルに移行するのに必要となるスキルをもった人を採用できているか
  3. システム・プロセス・インフラ:変化を起こすために投資を行い、環境を整備できているか
  4. イノベーション:新しい循環型の製品、システムやサービスを創造しているか
  5. 外部連携:共にサーキュラーエコノミーへと移行していくために顧客やサプライチェーンなどと連携し、影響を与えられているか

Outcomeの構成要素:インプットとアウトプット

インプット:企業のオペレーションにおいて、サーキュラーエコノミーの原則に基づいて資源やエネルギーを用いているか

アウトプット:サーキュラーエコノミーの原則に基づいた製品やサービスを生み出しているか

資源の流れと循環性を測るポイントをバタフライダイアグラム上に表した図

Circulytics利用の流れ

自社の循環性の測定を希望する企業は、次の通りの手順でCirculyticsを利用することができる。

①事前登録

エレン・マッカーサー財団ウェブサイト上のCirculytics事前登録ページより、企業情報を入力する。

②承認を待ち、詳細情報を入力・送信

事前登録から数営業日でエレン・マッカーサー財団からの承認を得られれば、URLリンクが送付され、ツールの利用が開始できる。リンクから自社の現状を入力すればOK。承認を待つ間、どの項目についての情報が必要か確認し(自分ひとりで把握できるほうが珍しい)、社内の担当部署やサプライヤーなどに確認し、情報を集めよう。聞かれる項目については事前にQuestion Indicator Listから確認できる。

③評価を受ける

会社の取り組みの現状を入力・送信してから数営業日の間に評価が送られてくる。実際の評価は、下記の図のように1ページのスコアカードとして提供される。

④社内に共有し、改善へ

社内に現状と進められる改善策を共有し、運用改善につなげる。現状を可視化・数値化することで、それに基づいてサプライヤーや社内のデザイナーなどと今後の活動項目について議論できる。また、多くの場合社内から挙がる「できない理由」に対しても、客観的なデータに基づいて道筋を示すことができる。

⑤(任意で)サーキュラーエコノミー達成度を顧客や投資家に向け発信

得た評価を外部パートナーに共有しよう。企業としての取り組みを情報開示し、透明化することで周りを巻き込み、共に価値を創っていくことにつながる。

サーキュラーエコノミー度を診断できるその他の指標

Circulyticsの他にも、企業が自社のサーキュラーエコノミー到達度を測るために活用できる指標が存在するので紹介しよう。

Material Circularity Indicator(マテリアル・サーキュラリティ指標)

エレン・マッカーサー財団が提供するMaterial Circularity Indicator(マテリアル・サーキュラリティ指標)は企業の製品設計や資源の仕入れを改善するためのツールだ。

  • 特定の製品についてのマテリアルフローの循環性を測定
  • 製品の視点から社内のマテリアルフローについて可視化する
  • 製品設計や仕入れが循環型になるように意思決定を後押し

マテリアル・サーキュラリティ指標は事業部ごと・製品ごとのマテリアルフローや製品の循環性を示してくれるため、企業としての大きな枠組みでの循環性を示すCirculyticsと併用することで、より包括的なアプローチが可能になる。

Circular Transition Indicators (CTI, サーキュラー移行指標)

WBCSD Circular Transition Indicator ページより

WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が提供するCircular Transition Indicators(サーキュラー移行指標)は、自己評価のためのフレームワークで、企業はマテリアルフローとエネルギー消費の観点からサーキュラーエコノミー達成度を知ることができる。

  • 特定の期間を選択し、改善状況を知ることができる
  • ダッシュボードから、リアルタイムで現状を把握することができる

この指標により、サプライヤーや顧客とサーキュラーエコノミーへの移行へ向けた議論・対話が可能になる。詳しくはWBCSDの公式ウェブサイトより確認できる。

マテリアルフローの定義と測定に用いる数字は、Circulyticsと統一したものが用いられているため、同時に両方のツールを使ってより大きな見取り図として全容を理解することができる。

LCA(ライフサイクルアセスメント)

出典:LCA日本フォーラムの提言より

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、地球からの資源の採取に始まり、製造・輸送・使用された後、廃棄物が地球に戻されるまでのすべての活動を評価する仕組み。LCAは特定の製品やサービスに着目するのに対し、Circulyticsは企業としてのサーキュラーエコノミーへの移行に着目する点で異なる。また、LCAは「ゆりかごから墓場まで」の概念で、環境負荷を減らす目的で設計されているため、サーキュラーエコノミー到達度合いを表したものではない。

その他の国際的な指標

環境や社会に配慮された事業を行っている企業に与えられる民間認証制度「B Corporation(Bコーポレーション)」や、人間や地球および繁栄のための17の目標「持続可能な開発目標(SDGs)」などの指標とCirculyticsを連動する必要性については互いに認識しており、話し合いを重ねている。準備が整い次第、連動を開始する予定だ。また、既存のCSR報告書に記載される項目やファイナンシャルスコアなども組み込むことを想定している。

サーキュラーエコノミー移行のためのツール「Circulytics」について2000人で議論

Circulyticsは世界初となる包括的な企業のサーキュラーエコノミー移行のためのツールということで、多くの質問や懸念点などが議論された。その一部を紹介したい。

質問:消費者や投資家向けの情報発信に使うとなると、グリーンウォッシュに使われてしまうのではないか。

数値や社内体制が正しく入力された場合、本質的な行動が伴わない表面的なパフォーマンスだけでは良い評価につながらないよう設計されている。

しかし、まず前提として、Circulyticsに入力するデータはあくまでも自己申告制となるため、エレン・マッカーサー財団がその企業の実情を実際に調査して、認定するわけではない。現時点でCirculyticsを導入した企業のほとんどは社内的な体制づくり・運用改善を目的としており、社外に数値を公表したのは5社に留まっている。

質問:誰が使えるの?

大小問わず、すべての規模の企業、団体、政府、教育機関など、どのような団体でも利用できる。企業が登録した後に同意のうえ、利用しているコンサルティング会社などに情報を共有することもできる。

質問:Circulyticsを導入した多くの企業が驚いたことは?

さまざまなコメントを受けたが、最も驚かれるのはPeople’s Aspect=人という視点を組み込んだことだろう。サーキュラーエコノミーについて話す時、環境面・経済面での議論がなされるものの「人」という側面はまだまだ光が当たっていない。Circulyticsは「人とスキル」という要素を評価に組み込み、サーキュラーエコノミーモデルに移行するのに必要となるスキルを持った人を採用できているかという指標を用いている。この点についてさらなる議論を引き出すことを期待する。

質問:サーキュラーエコノミー移行への施策導入のどの段階で使えば良いのか?

どの段階でもいい。変化を追えるので、例えば年に1回評価することで、どこまで成果を上げられていて、今後どのように改善できるか確認できるのではないか。

質問:現状ではどの分野の企業がより高いサーキュラーエコノミー到達度を示しているか?コロナショックは影響したか?

非物質化・デジタル化ツールやサービスを提供する企業が高い到達度を示しており、今回のコロナショックでも比較的影響を受けにくかった業種と重なる。これらの企業の共通点は、物質的な消費が少ないという特徴だ。この状況は、まるで物質的な消費のない世界を先取りして見ているようだ。

エレン・マッカーサー財団のオンライン学習プログラム「From Linear to Circular: Open to All」第9回の今回はCirculyticsというテーマで行われた。次回は壮大な見取図というテーマについてレポートする。

これまでのレポート

第1回「サーキュラーエコノミーとはそもそも何か?
第2回「サーキュラーエコノミーのためのデザイン
第3回「循環するビジネスモデル
第4回「次の段階のサーキュラーエコノミー
第5回「プラスチックのサーキュラーエコノミー
第6回「サーキュラーエコノミーと都市~建築、交通、食糧システムを変える~
第7回「ファッションのサーキュラーエコノミー
第8回「食のサーキュラーエコノミー

【参照サイト】CE100
【参照サイト】Circulytics Sign-up
【参照サイト】Question Indicator List
【参照サイト】Material circularity indicator
【参照サイト】WBCSD Circular Transition Indicator
【参照サイト】WBCSD
【参照サイト】B Corporation(Bコーポレーション)
【参照サイト】Sustainable Development Goals “About the Sustainable Development Goals”
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