Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミー(以下CE)の実現を目指す国内外のさまざまな動きを発信している。そもそもサーキュラーエコノミーとはどのようなもので、実際の社会に適応されるとどのように機能するのかーー。サーキュラーエコノミーについて理解を深めるため、筆者はエレン・マッカーサー財団が10週間にわたって提供するオンライン学習プログラム「From Linear to Circular: Open to All」に参加している。そこで得た学びをこれから毎週レポートしたい。
※本レポートは、エレン・マッカーサー財団に許可を得た上で、講義内容等を掲載しています。
次世代のCE分野のリーダーをエンパワー
2020年4月15日(水)から毎週水曜日、10週間全12回続くこのコースは、次世代のサーキュラーエコノミー分野のリーダーたちのエンパワーメントを目的としている。全12回のテーマは下記の通りだ。
From Linear to Circular : Open to All プログラムテーマ(全12回)
第1回「サーキュラーエコノミーとはそもそも何か?」
第2回「サーキュラーエコノミーのためのデザイン」
第3回「循環するビジネスモデル」
第4回「次の段階のサーキュラーエコノミー」
第5回「プラスチックのサーキュラーエコノミー」
第6回「サーキュラーエコノミーと都市~建築、交通、食糧システムを変える~」
第7回「ファッションのサーキュラーエコノミー」
第8回「食のサーキュラーエコノミー」
第9回「サーキュラーエコノミー移行のためのツール」
第10回「壮大な見取り図」
第11回「再生する農業」
第12回「サーキュラーエコノミーと気候変動、より良い復興のために」
講義は毎週水曜日の午後4時から1時間、オンライン会議ツール「Zoom」を使って行われる。一回あたりの講義には合わせて2,000人近い参加者がおり、司会やゲストスピーカーから一方的に話すだけではなく、双方向でのコミュニケーションや参加者同士のコミュニケーションが推奨されている。ZoomでのQ&Aやチャット機能を通して、リアルタイムで疑問や意見を交わすことでトピックについて議論や理解を深める。また、ビジネス向けチャットツール「Slack」を併用し、オンライン講義のなかで拾いきれなかった質問や意見を取り上げて議論をしたり、参加者同士がつながったり、関連する文献や知識について情報共有をしたりすることを可能にしている。
サーキュラーエコノミーを考えるための3つの問い
第1回の今回は、「Which Circular Economy?(サーキュラーエコノミーって一体どんなもの?)」というテーマだ。講義が始まる前に、事前に主催者側から3つの質問が与えられた。サーキュラーエコノミーを考えるための3つの設問で、それぞれ2つの視点が用意されている。どちらかが正しいというわけではなく、議論を呼び起こすための問いだ。そこに参加者がそれぞれの立場から意見を投稿する。設問は次の通りだ。
設問1: DESIGN FROM WASTE(廃棄物からデザインする)
- 廃棄からデザインすることはサーキュラーエコノミーに当てはまる。なぜならば、それにより結果廃棄される物の量が抑えられるからだ。(Designs from waste fit in a circular economy because they slow down the waste creation.)
- 廃棄からデザインすることはサーキュラーエコノミーに当てはまらない。なぜならばそれは最終的にダウンサイクルにつながるからだ。(Designs from waste do not fit in a circular economy because they are ultimately downcycled.)
設問2: EFFICIENCY AND EFFECTIVENESS(効率と効果)
- サーキュラーエコノミーは資源の消費が遅いだけの経済だ。なぜならば資源の「漏れ」を完全に防ぐことはできないからだ。(A circular economy only means an economy that slows down resources consumption, because there is always material leakage.)
- サーキュラーエコノミーは、森のように機能する再生的経済だ。存続するためにその中の一本一本の木を養い、その代わりに一本一本の木は森を養う(A circular economy is a regenerative economy that behaves like a forest: to feed itself, it feeds the individual tree which, in return, feeds the forest.)
設問3: RECYCLING(リサイクル)
- リサイクルを増やすことはどの段階のサーキュラーエコノミーにおいても優先事項だ。(Increasing recycling is a high priority in any circular economy.)
- リサイクルすることは、どんなときにおいても、製品や資源を高い価値のまま維持することほど重要ではない。(Recycling is less important than maintaining products and components at a higher value, at all times.)
あなたはどう思うだろうか。次に紹介する講義の内容を読み進める前に、一度考えてみてほしい。
電球から考える、リニアエコノミーの限界
1924年、スイス・ジュネーブ。クリスマス前のある雪が降る夜、世界中から会社が集まり、話し合いが行われていた。電球産業は課題に直面しており、対応を協議していたのだった。技術は進歩し、当時1つの電球はおよそ2,500時間、少なくても2,000時間は明かりを照らせるようになっていた。それが問題だった。明かりを照らせる時間が長くなれば長くなるほど、人々は少ない数の電球しか買ってくれなくなるからだ。各社の営業利益は急激に縮小し、会社存続の危機に瀕するほどだった。
話し合いの結果、産業各社、電球一つあたりの耐久性を1,000時間に下げることが決められた。各社は自分たちの研究所に帰り、エンジニアやデザイナーたちに、電球が1,000時間以上稼働すると壊れるデザインに作り変えるよう依頼した。検証実験まで行い、各社が同じ基準の商品を作るよう確認したほどだ。
これが確認されている限り、世界で初めての「計画的陳腐化(Planned Obsolescence)」の事例だ。「計画的陳腐化」とは、営業促進を目的として恣意的・意図的に商品寿命を縮めることを指す。
今日の社会では、本来であればもっと長い間使えるが、計画的陳腐化された商品が数多く存在する。
技術があるのにも関わらず計画的陳腐化が行われている現状を目の当たりにすると、われわれはその会社や産業のモラルを問いたくなってしまう。しかし、ここで考えなければならないことは、計画的陳腐化をする人たちが現れてしまうのは、私たちがおかれている「仕組み」が原因なのではないだろうか、ということだ。
なぜ電球産業がこのような道を辿ってしまったか理解するには、さらに前の産業革命にまで話を戻す必要がある。労働力とエネルギーが安価で手に入った、今とは全く異なる時代。資源に限りがあるという概念がない時代だった。資源は無限にあると考えられていた。「より多く」作るための技術と工程が発達し、これまでよりも「より安く」「より早く」「より多く」作って売り、経済的に早く成長できる方法が広められ、そのためのマーケティング手法が新しく確立された。
この、より多く作り、より多く売り、より多く買い、より多くを所有するという仕組みは、資源を採掘し続け、不要になったものは廃棄し続けることによって成り立つものだった。製品を最後は廃棄してしまうということは、材料となる資源だけでなく、製品に加工する過程で必要となる労働力やエネルギーをもまた廃棄してしまうことになる。この構造を「リニア(直線的または一方通行)経済」と呼ぶ。この仕組みのおかげで、私たちは今日多くの製品に囲まれて暮らしているが、価値のある資源が猛スピードでごみへと変えられるこの仕組みには、明らかに限界が迫っている。
資源の大部分が活用されないまま廃棄されるため、資源効率・エネルギー効率の観点からも無駄が多い仕組みと言える。例えば、車は平均して90%の時間は利用されずにただ駐車されているだけだ。しかし、車を作るために費やされる資源やエネルギーは膨大で、そのうちの多くが活用されないまま廃棄されている。
上図は、現在のプラスチック資源循環を描いたものだ。製造には多くの資源とエネルギーが費やされているのにも関わらず、使われたもののうち、再度使えるクオリティの高いプラスチック資源にリサイクルされるのはたったの2%にとどまっている。残りはすべて無駄になるだけでなく、埋め立てられて環境を汚染する原因になっている。食べ物にいたっては、バリューチェーン上の3分の1にあたる量が廃棄されている。排出される二酸化炭素のうち45%は、建物・車・食べ物など私たちの日々の生産と消費から発生している。
これは、私たちの社会を形作っている仕組みを少しいじればなんとかなるという次元の話ではない。根本から作り変える必要があるのだ。
では、どのような仕組みに作り変えればいいのだろうか。
ここで、電球に話を戻そう。トーマス・ラウという建築家がいた。数年前、彼はオフィスに新しく明かりが欲しいと考えた。ただ、彼は電球や配線といったことではなく、「明かり」そのものが欲しかった。そこで彼は電気機器メーカーのフィリップスに相談することにした。そして、フィリップスとラウ氏がともに導き出したのが、「明かりというサービスを売る」という新しい概念を伴ったシステムだ。
ラウ氏が欲したのは「明るさ」だけで、物理的に何も所有したくないとの強い希望があったため、物自体はフィリップスが所有したままということにした。電球が切れたら、ラウ氏が電球を買って交換するのではなく、フィリップスが交換して「明るさ」を提供し続けるのだ。この仕組みが素晴らしい理由はいくつもあるが、最も大きなものとしては、これによりフィリップスにとって壊れにくい、耐久性の高い製品を作り出すことに大きなメリットが生まれた点だ。製品自体の資源・エネルギー効率を高めることが仕組み上可能になったのだ。また、センサーを用いて外から自然光が入る時はエネルギーを使わないように光量を調節したり、人がいない箇所は明かりを消したり、無駄を省く方法を考えることにもつながった。これは、新しい仕組み、サーキュラーエコノミーの考え方の一例だ。
サーキュラーエコノミーの三原則とは?
新しい仕組み、サーキュラーエコノミーは次の三原則に基づいている。
1. ごみ・汚染を出さない設計(Design out waste and pollution)
ごみや汚染が出てしまうのは構造的な問題であり、初めの設計に問題があるからだ。廃棄・汚染につながらず、長く使うことができ、その後自然に返すことができるよう、もしくは資源として使い続けられるように考えなければならないのは、一番初めの設計の時点だ。いらなくなった後、ごみや汚染となってからでは、できることが限られてしまうからだ。
事例:オランダの化学大手DSM社
カーペットには50種類ほどの有害物質が含まれる。さらに、資源としてリサイクルされるのは1%ほどにとどまる。カーペットは何層もの異なる素材からできているため、不要になった後それぞれの資源に分けることができず、リサイクルの妨げになっていた。そこでオランダの化学大手DSMは、新しい接着剤「Glue like a screw(ネジのような接着剤)」を考案した。カーペットの各層を文字通りネジのように固定し、役目を終えたら外すことで、資源の分別ができるようにしたのだ。作る前の段階で廃棄が発生しなくなる。
セミナーの参加者からは、London Waste and Recycling Boardに導入された、オランダのDesso社の魚網からつくるカーペットなども良い事例だという声が上がった。
事例:マッシュルームから包装資材を作る米Ecovative Design
多くの場合、包装資材はプラスチックでできているが、商品を包むためだけに使われるため、一度使ったら捨てられる。そこで米ニューヨークに本社を構えるEcovative Designは、農業用に使われるパイプに目をつけた。これらのパイプは経済価値が非常に低いと見なされるため不要になると捨てられる。このパイプを回収・リサイクルした素材をある菌に食べさせると、分解されてきのこが育つ。そのきのこを好きな形に育てて包装資材として使う。上の写真右は、アルファベット「WE GREW THIS HEADLINE(私たちはこのヘッドラインを育てた)」の形に育てたもの。自然の仕組みそのもののように、どこかから出たごみは何かの食べ物になりうるという良い事例だ。
2. 製品と原材料を捨てずに使い続ける(Keep products and materials in use)
資源を最大限の価値を発揮する状態で、なるべく長い期間使い続けることが重要だ。多くの場合、製品が作られる時、原材料と労働力、そしてエネルギーが必要となるが、不要になると製品を捨ててしまう。このとき、製品に使われた原材料だけでなく、労働価値やエネルギーも廃棄されてしまう。つまり、もっとも効率的な仕組みは、作られた製品をできるだけ長い期間使い続けられるものだ。そして、最後には資源に分けられ、他の製品などに再利用できる状態に戻すことが必要とされる。
事例:ヘッドフォンを貸し出すGerrard Street
年間およそ1,500万キロのヘッドフォンとイヤホンが廃棄されている。その現実に心を痛めたオランダ人の音楽好きが、製品のモデルを根本的に変えるため、Gerrard Streetというビジネスを始めた。Gerrard Streetが行うのは、ヘッドフォンをサブスクリプションモデルで貸すサービスだ。彼らの扱うヘッドセットは、各部品を解体できるようになっており、パーツの交換・修理・アップグレードを容易にしている。彼らは、資源の種類によって寿命が異なることを理解しているため、その素材ごとに分けられるようにすることで、まだ使える素材が捨てられるのを防ぐ。
事例:サーキュラーファッションのTeemill
生産される洋服のたった1%しか新しい服に生まれ変わらない。Teemillが提供するのは、サーキュラーなオリジナルTシャツプリントサービスだ。Teemillを利用すれば、初期の設備投資なしに誰でも高品質のサーキュラーファッションブランドを作ることができる。彼らが作るすべての服には小さなラベルがついていて、その服を返せば一点あたり5ポンド(約660円)戻ってくると書いてある。利用者からのエンゲージメントを高める良い仕組みで、かつ一定量のコットンを継続して仕入れられる良い方法だ。古いTシャツが返却されると、新しいオーガニックコットンを混ぜ、新たなTシャツに作り変える。製品と資源が循環し続ける仕組みになっている。さらに、作り続けるのではなく、製品が返却されたときだけその製品を作り直すため、巨大な倉庫が必要なく、売れない在庫を抱えるというファッション業界共通の心配をする必要もない。
もっと多くの人がこのように考え方を変える必要がある。現在の仕組みを考え直し、おかれた業界、立場からサーキュラーなやり方に作り変えていく必要がある。
3.自然の仕組みを再生する(Regenerate natural systems)
自然の仕組みから発想するーー。これはおそらく、サーキュラーエコノミーを考えるうえで最も大切なことだ。自然の循環の仕組みは、他の何よりも効率的だ。春の時期、世界の街角では桜が見頃を迎える。花は種を作って命をつなぐためにできるが、もしもうまく発芽できないものがあったとしても、分解されて土壌の栄養になる。このようにすべてのものが巡る仕組みは、サーキュラーエコノミーの概念そのものだ。自然の中には「ごみ」という概念がない。木から落ちる葉はごみになるのではなく、森の栄養になる。悪影響を減らすという、マイナスをゼロにという考え方ではなく、サーキュラーエコノミーとは、周りに良い影響となる、プラスを作り出すやり方へと作り直すこと他ならない。
事例:ブラジルのサーキュラー農業のパイオニアBalbo
今から30~40年前、ブラジルに住むLeontino Balboさんは先代からサトウキビ農園を受け継いだ。それが彼の農業ビジネス、Balbo(現Native社)だ。当時、この農園では多くの化学肥料や殺虫剤が使われていた。Balboは子どものころから自然が好きで、森の中で多くの時間を過ごしては自然がどのような仕組みになっているのか見よう見まねで学んだ。彼は自然の中で学んだことを活かし、一定の条件が揃うようにすると、化学肥料を使わなくても作物は良く育つことを突き止めた。彼のビジネスは成功し、化学肥料も殺虫剤も使わずに、現在世界に流通するオーガニックサトウキビの30%を供給するまでになった。彼が一番大切にしていることは、土壌が可能な限り豊かな状態に保たれることで、そうすると高品質のサトウキビが豊かに育つことを知っているからだ。
事例:オランダ・フェンローの市役所ビル
オランダ・フェンロー市は、自然からインスピレーションを受けてフェンロー市役所ビルを建てた。職員・訪問者・医療関係者などさまざまな人をつなぐ仕組みが、建物じゅうに散りばめられている。建物の側面は緑に覆われ、そこでは作物が育ち、空気が浄化されるなどしている。
CEで社会はどのように変わるのか?
バタフライ・ダイアグラムで俯瞰する
ごみ・汚染を出さない設計、製品と原材料を捨てずに使い続ける、自然の仕組みを再生するーー。これらの3つがサーキュラーエコノミーの仕組みとなることを説明した。これが実際に適用されると、社会はどのように変わるだろうか。それを示した図が、下記のバリューサイクル(エレン・マッカーサー財団はバタフライ・ダイアグラムとも呼んでいる)だ。
エレン・マッカーサー財団 「バタフライ・ダイアグラム」
真ん中には、直線で一方通行のリニアエコノミーモデルが示されている。このモデルでは、まず資源を採掘するところから始まり、それを部品製造業者(Parts Manufacturer)が労働力とエネルギーをかけて部品に作り変え、製品製造業者(Product Manufacturer)に渡し、製品になる。その後サービスプロバイダーが消費者に商品を届ける。ほとんどの場合、その後これらはごみになり埋め立てられ、環境に負荷をかける。
この一方通行のモデルから、円の中を循環するモデル、すなわちサーキュラーモデルに移行することが求められる。自然資源(または再生可能資源(図の左側))と技術資源(または枯渇性資源(図の右側))に分けて考えてみたい。自然資源は、自然のなかに返しても環境を壊すことのない資源で、この自然資源以外は自然界においては「汚染物質」だ。例えば、金属・プラスチック・合成化学物質など、これらは自然にそのまま返すことができないため、右側の「技術サイクル」の中にとどめる必要がある。それぞれのサイクルの中でどのように価値を利用するかが変わってくる。
「技術サイクル」のなかで製品を使う時、「利用者」という言葉を用いる。使い手は一定の期間だけその価値を利用し、その後不要になったら今度は他の人が使うことができるからだ。
この「技術サイクル」のなかで、できるだけ長い期間利用され、かつ、多くの利用者がシェアして利用することが好ましいと考えられる。設計の時点から、長くもつように耐久性を高め、容易に修理でき、修理する方法もわかりやすいようデザインする。パタゴニアが壊れたファスナーの修繕の仕方を公開していることは良い例だ。
また、製品が利用者から必要とされなくなった場合、次の利用者が購入し手に入れることができるように再分配(Redistribute)する仕組みを作ることも大切だ。eBayなどのプラットフォームが良い例だ。こうして再分配することで、製品を作り変えなくとも、もっと長く使ってくれる利用者を見つけることができるからだ。
続いて、製品の作り変え(Refurbish / Remanufacture)だ。この工程では、表面だけでなく製品を部品レベルに分け、修繕し、これまで同様かそれ以上の価値をもつ製品に蘇らせて改めて利用してもらう。
そして、次の段階がリサイクルとなる。この段階まで達すると、製品を解体し、資源ごとに分け、異なる製品の原材料として利用することとなる。この円からはみ出さないように循環できれば、ごみとして処分し埋め立てることはなくなる。
続いて、自然資源サイクルを見てみよう。製品として利用したあと、自然の仕組みの中に戻すのがこのサイクルの特徴だ。例えば、ジーンズを使い終わり、返却するとする。すると今度は、それを家具の中綿として利用する。その後中綿としての役目を終えると、次は断熱材に加工し利用する。そして断熱材としての役目を終えたあとは微生物に分解してもらい、バイオガスや土壌を豊かにする肥料に変えられる。
円が小さければ小さいほど(図上の内側の円ほど)、価値が大きい状態を指す。製品を作るのに費やされた労力や製造エネルギーが無駄にならないからだ。来週以降さまざまなサーキュラー・ビジネスモデルを解説していくが、多くのモデルはこの円を意識したものが多いので覚えておいてほしい。
サーキュラーエコノミーへの移行に成功すれば、2030年までに1.8兆ユーロ(約210兆円)もの経済的利益をもたらすとされている。それは、現在のままの経済モデルから得られるとされる0.9兆ユーロ(約105兆円)の2倍だ。また、2030年までに二酸化炭素ガス排出量を48%削減することに成功するとされている。
約2,000人の参加者で議論
今回の学習プログラムは完全オンライン形式で行われるため、2,000人近いサーキュラーエコノミーを専門にするプロフェッショナルやサーキュラーエコノミーを理解して仕事に活かしたいプロフェッショナルが世界じゅうから参加している。最も多いと感じるのはヨーロッパからの参加者で、次いでアメリカ、インド、その他のアフリカ、アジアなどの国だろうか。講義の初めに司会者が行ったリアルタイム投票では、サーキュラーエコノミーへの理解を1(初心者)〜5(エキスパート)とすると、63%の参加者が3か4(中級〜ほぼ理解している)と回答していた。
CEは新たな経済システムを作り直すこと
最初に紹介した、3つの問いについてさまざまな意見が寄せられた。下図は参加者の回答をプロットで表したものだ。傾向が読み取れるだろう。
設問1: DESIGN FROM WASTE(廃棄物からデザインする)
- 廃棄からデザインすることはサーキュラーエコノミーに当てはまる、なぜならばそれにより結果廃棄される物の量が抑えられるからだ。(Designs from waste fit in a circular economy because they slow down the waste creation.)
- 廃棄からデザインすることはサーキュラーエコノミーに当てはまらない、なぜならばそれは最終的にダウンサイクルにつながるからだ。(Designs from waste do not fit in a circular economy because they are ultimately downcycled.)
この問いについては意見が割れた。そもそも廃棄を出さない製品を設計すべきだという意見と、捨てなければいけないものを資源とした設計をすべきだ、という意見が多く見られた。「廃棄」という言葉の受け取り方で意見が分かれたようだ。廃棄されているものは資源である、という視点に置き換えると、おおむね皆同じ意見だと言える。
設問2: EFFICIENCY AND EFFECTIVENESS(効率と効果)
- サーキュラーエコノミーは資源の消費が遅いだけの経済だ、なぜならば資源の「漏れ」を完全に防ぐことはできないからだ。(A circular economy only means an economy that slows down resources consumption, because there is always material leakage.)
- サーキュラーエコノミーは、森のように機能する再生的経済だ。存続するためにその中の一本一本の木に恵み、その代わりに一本一本の木は森に恵む(A circular economy is a regenerative economy that behaves like a forest: to feed itself, it feeds the individual tree which, in return, feeds the forest.)
この問いについては、多くの人が2.を支持した。意見としては、サーキュラーエコノミーへ移行することは、現行の仕組みをより効率的にすることではなく、もっと効果的な仕組みを作り直すことだとする意見が多く見られた。リニアモデルでさらなる効率を追求することはできるが、それが正しい方向でない限り改善しなければならず、必要なのは効率化ではなく効果的な仕組みである。例えば、プラスチックボトルを効率化すると、より少ない素材やコストで同じものを作るということになるが、効果的にするには、都度ボトルを作るのではなく、長く使えるボトルを作り使い続けるということになるからだ。
設問3: RECYCLING(リサイクル)
- リサイクルを増やすことはどの段階のサーキュラーエコノミーにおいても優先事項だ。(Increasing recycling is a high priority in any circular economy.)
- リサイクルすることは、どんなときにおいても製品や資源を高い価値のまま維持することほど重要ではない。(Recycling is less important than maintaining products and components at a higher value, at all times.)
この問いについては、2.を支持する意見が多く見られた。すべての意見をまとめるならば、できる限りリサイクルをしなくても良い仕組みを設計すべきだ、しかしその仕組みから漏れてしまう資源が必ず発生してしまうため、それはリサイクルすべきであるーーということができる。
そのほか、以下の質問に対して数多くの視点が出された。
質問:リニア型の収益性を良しとする企業に対して、どのようにサーキュラーエコノミーへの移行を推奨すれば良いか?
・小規模な事例だけでなく、大規模なビジネスで大きな収益を上げている事例を紹介する。サーキュラー・カー「Riversimple」の創業者で元レーサーのヒューゴ・スパワーさんは、一時的な売上だけで業績を判断せず、貸借対照表のうち、長期的な資産に着目しているそうだ。また、これまでのリニア型の収益とは異なる形のポジティブな副産物が生まれているか意識的に見つめているそうだ。
・サーキュラーエコノミーに移行すべき理由は収益だけではない。サプライチェーンの安定性を担保するという点は大きい。サプライチェーンを完全に異なる形で作り変えるため、世界的な原材料の高騰などに左右されにくいという特徴がある。また、顧客ベースが社会的意識の高い、より強い購買力を持った人々にシフトすることも着目すべき点であろう。
質問:行動変容を求められるのは消費者だけでいいのか?
これまで、環境により良い選択をすべきだとされてきたのは個々人、つまり消費者だった。きちんと分別すべきだ、ビーチのごみ拾いをすべきだ、大量の物を買うべきではない、など。しかし責任を一個人の選択に任せてしまうのは本当に正しいのだろうか。
また、単純に購買行動自体を減らせば企業は苦しみ、雇用が失われることにつながるとも考えられる。「良い消費」をしなければならないのに、そうしてしまうと経済的苦痛が伴うのは、その経済の仕組みにひずみが生じているからだ。それは消費者の行動を変えれば解決するという単純なものではない。先ほど言及した電球産業の話を思い出してほしい。使い手だけに「もっと環境に良い消費行動をしましょう」と押し付けるだけでは解決しない。これは企業か消費者だけの努力でどうにかなる問題ではなく、仕組みそのものを再設計する必要があるのだ。
第2回のテーマは、Design for Circular Economy(サーキュラーエコノミーのためのデザイン)
エレンマッカーサー財団のオンライン学習プログラム「From Linear to Circular: Open to All」第1週の今回はWhich Circular Economy?というテーマで行われた。第2回はDesign for Circular Economy(サーキュラーエコノミーのためのデザイン)についてレポートする。
全12回レポートはこちら
第1回「サーキュラーエコノミーとはそもそも何か?」
第2回「サーキュラーエコノミーのためのデザイン」
第3回「循環するビジネスモデル」
第4回「次の段階のサーキュラーエコノミー」
第5回「プラスチックのサーキュラーエコノミー」
第6回「サーキュラーエコノミーと都市~建築、交通、食糧システムを変える~」
第7回「ファッションのサーキュラーエコノミー」
第8回「食のサーキュラーエコノミー」
第9回「サーキュラーエコノミー移行のためのツール」
第10回「壮大な見取り図」
第11回「再生する農業」
第12回「サーキュラーエコノミーと気候変動、より良い復興のために」
【参照サイト】エレン・マッカーサー財団
【参照サイト】フィリップス
【参照サイト】DSM
【参照サイト】London Waste and Recycling Board
【参照サイト】Desso
【参照サイト】Ecovative Design
【参照サイト】Gerrard Street
【参照サイト】Teemill
【参照サイト】Native
【参照サイト】Venlo
【参照サイト】eBay
【参照サイト】Riversimple
【参照レポート】A NEW TEXTILES ECONOMY:REDESIGNING FASHION’S FUTURE
【参照記事】Online circular economy programme launched
【関連記事】エレン・マッカーサー財団、サーキュラーエコノミーの無料オンライン学習プログラムを提供開始
【関連記事】サーキュラーエコノミーは、コミュニティにも恩恵をもたらす。LWARB「Circular London」に学ぶ、循環型都市への道のり
本記事で紹介しているエレン・マッカーサー財団のオンライン学習プログラム「From Linear to Circular」の内容を基に、9月1日~11月24日にかけてCircular Economy Hub主催・全7回のオンライン学習プログラム「エレン・マッカーサー財団から学ぶサーキュラーエコノミーの全体像 ~ゲストセッション付き~」を開催いたします。本記事の内容を基にさらにサーキュラーエコノミーに関する知見を深めたいという方はぜひご参加ください。